1998年   1月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

NYニュー・スクールOBバンドのライヴに井上智が参加

 ジャズを大学レヴェルで専門的に教育する学校として、ボストンのバークリー音楽大学は歴史も古く日本からも多くの留学生が学んでいる。NYにもニュー・スクールのジャズ&コンテンポラリー・ミュージック専科、マンハッタン・スクール・オブ・ミュージックなどがあり、大学院の修士課程では、シティ・カレッジ、クイーンズ・カレッジなどの学校がある。今回はニュー・スクールOBバンドのリポートと、カリキュラムについて紹介しよう。
 
 女性サックス・プレイヤーのヴァージニア・メイヒュウをリーダーとするこの日のグループの構成は、ギターにニュー・スクールの講師でもある井上智、ベースに同じくコースで、1993、96年のヨーロピアン・ジャズ・アーティスト・オブ・ジ・イヤーの受賞者、ヨハネス・ワイデンミュラー、ピアノには予定されていたラリー・ゴールディングスが盲腸で入院のため、急遽エルヴィン・ジョーンズ・ジャズ・マシーンで活躍するカルロス・マッキンニー、スペシャル・ゲストとして、ドラムスのレオン・パーカーといった1990年代前半に卒業した若手メンバーだ。リーダーのメイヒュウと、コ・リーダー格の井上のオリジナルを中心に、各メンバーをフィーチャーした曲目を演奏した。
 
この日のパフォーマンスはセッション・グループの荒さが見受けられたが、それがスリリングな緊張感を生み出す作用をもたらした。丁寧なフレイジングのメイヒュウと、構成のしっかりしたソロをとる井上のフロント陣に、リズミックでアウト・フィーリングなハーモニーのバッキングで色付けをするマッキンニー、ハイハット・シンバルなしの、3点セットとレガート・シンバル1枚という変則セットながら、多彩で強烈なグルーヴをたたき出すパーカー、このコントラストの絶妙の接点として重厚かつ堅実なリズムをキープするワイデンミュラー。このアンサンブルは時に一体となりながら、それぞれが奔放に解き放たれるフレキシブルなサウンドを聴かせてくれた。
 
 彼らの母校であるニュー・スクール大学群、ジャズ&コンテンポラリー・ミュージック科は、1986年に設立された。スモール・コンボにおける演奏技術の修得と向上に主眼をおいたカリキュラムは、全米の大学の中でもレヴェルが高いと定評がある。講師陣にはNYで現役で活躍するミュージシャン達 ー レジー・ワークマン(b)、ジョー・チェンバース(ds)、ギル・ゴールドステイン(p,kb)、デイヴ・リーブマン(ts,ss)、マリア・シュナイダー(arr.)らが名を連ねている。修得単位の中にプライヴェート・レッスンが組まれており、学校の紹介で各楽器ごとに多くのミュージシャンから直接レッスンを受けることができる。このカリキュラムが成功を修めていることは、この10年の間に輩出した卒業生達の活躍ぶりで、明らかであろう。今回のOBコンサートのメンバーのほかにも、ロイ・ハーグローヴ(tp)、ジェシー・デイヴィス(as)、ピーター・バーンスタイン(g)、ブラッド・メルドー(p)らNYの若手ジャズ・ミュージシャンや、スピン・ドクターズ、ブルース・トラヴェラーズらロック・バンドのメンバーなど、多彩なミュージシャンを送り出している。学生は250人程度と中規模だがヨーロッパ、日本からの留学生(現在日本人学生は15人ほど)も受け入れている。興味のある方は下記ウェッブサイトを参照し、資料請求もできる。(11/14/1997 於New School Performing Center、学校データは98年執筆時のものです。)

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