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1999年  2月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

シリアスな表現の追求と、音楽的ジョークの間を
行き来する、マット・ウィルソン・クァルテット
 クリスマスが近くなると、ニューヨークのいくつかのクラブではチャリティを目的としたベネフィット・ライヴのイヴェントが開催される。1998年も例外ではなく、イースト・ヴィレッジのネイバーフッド・バー“detour (デトゥアー)”では、恒例のマットウィルソン(ds)によるクリスマス・ライヴが行われた。今回はその模様をリポートしよう。

 マット・ウィルソン(ds)は“ニッティング・ファクトリー”、“デトゥアー”をフランチャイズに活動する新鋭ドラマーだ。1992年にニューヨークに進出後、デューイ・レッドマン(ts)、リー・コニッツ(as)、セシル・マクビー(b)らのグループで活躍し、ニューヨーク・ジャズ・クリティック・サークルの97年度ベスト・アーティストに選ばれた。エド・ブラックウェル(ds)、ポール・モチアン(ds)、ビリー・ヒギンズ(ds)らに影響を受けたウィルソンのスタイルは繊細で、共演者のサウンドにスポンティニアスな反応をする高い音楽性と、ユーモアたっぷりのエンタテインメント性を兼ね備えている。
 アンドリュー・デアンジェロウ(as,b-cl)、ジョー・フラム(ts,ss)、井上陽介(b)からなるウィルソンのレギュラー・クァルテットは、現在までに「As Wave Follow Wave」(Palmetto 1996)、「Going Once, Going Twice」(Palmetto 1998)と2枚のCDをリリースしている。ニューヨーク・タイムス紙に"One of the best working band in NYC"と評されたこのグループは、ニッティング・ファクトリーをフランチャイズとするだけに、アヴァンギャルド、フリー・ジャズよりのパフォーマンスを主体とするが、けっして難解な演奏ではなく、ウィルソンのユーモア・センスあふれるショーマンシップにより、シリアスなプレイの合間にも観客を楽しませるエンタテインメントとしての要素を多くもっている。

 デトゥアーにおけるライヴでは、レギュラーメンバーに加えてゲストとして、ディーナ・デ・ローズ(vo)、リサ・ミッシェル(vo)、トニー・シェアー(g)らがジョイントし、クリスマス・チューンをマット・ウィルソン流に料理していた。
 このグループのサウンド構成は、井上陽介の堅実なベースラインを核として、よりストレート・アヘッドのジョー・フラムのテナー・サックスと、フリーよりのアンドリュー・デアンジェロウのあると・サックスのコントラストを際立たせ、それを包括しつつ、全体の方向付けをウィルソンのドラムがリードするとアンサンブルを構築している。時には、デアンジェロウがバス・クラリネットによって低音部を支え、井上とロール・チェンジをするのも、サウンド・ヴァリエーションの一つだ。
 このギグでは、ストレート・アヘッド側にヴォーカルをつけ、本来はベーシストであるシェアーの、音数の少ないコード・ワークやよい意味でのノイジーなギター・ソロをアウト側に付加することによって、ふたりのサックスプレイヤーのコントラストを鮮明化しより大きなサウンドレンジを表現していたといえる。
 ウィルソン波線債でありながらアグレッシヴであり、リズム・アンサンブルだけでなく、ハーモニーをもリードするようなメロディアスなドラムを演奏している。
 曲が進むにつれ、次々とプレイヤーがジョイントしていき、クリスマスにちなんだ詩の朗読まで演奏に加わる展開を見せた。その詩に表現された言葉の擬音を、ヴォーカルとサックスが重ね合わせ、リズム楽器がクライマックスに向かって全体を盛り上げていく。ショー的要素も含んだその構成は、ウィルソンの音楽的許容力の広さを感じさせる。
 シリアスな表現の追求と、様々な引用などの音楽的ジョークの間を行き来するサウンドは、ビル・フリゼール(g)のグループにも聴くことが出来るが、ウィルソンは、その絶妙なバランス感覚で自己のグループ・サウンドとして完成させているといえよう。このサウンドのおもちゃ箱のようなバンドの今後にも注目したい。(12/15/1998 於detour )

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