2001年 3月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

ソウライヴのギタリスト、エリック・クラズノーと
ジョン・スコフィールドのスリリングな競演

1月の、ジョン・スコフィールド・バンプ・バンド、2月のMMW、ソウライブと立て続けに来日し、そのサウンドの実体が明らかになりつつあるジャム・バンド・ムーヴメントだが、そのNYの拠点であるウェットランズでは、来日直前のソウライヴのギタリスト、エリック・クラズノーがホストを務めるセッションに、帰国したばかりのジョン・スコフィールド(g)が登場し、壮絶なギター・バトルをを繰り広げた。その模様をリポートしたい。


 ウェットランズでのギグは、本コラムでも数回取りあげたが、このエリック・クラズノー(g)のセッションは、このクラブの特色である、毎週水曜日に、ホストとなるレギュラー・グループを、1ヶ月間ブッキングし、多彩なゲストを迎えるレジデント・システムで行われた。ホスト・バンドには、クラズノーがソウライヴ結成以前に参加していた、ボストンをフランチャイズとするファンク・バンド "レタス"を配し、DJロジック、JBホーンズの主要メンバーで、ソウライヴの新作「ドゥーイン・サムシング」(東芝EMI)でホーン・アレンジを手がけた、フレッド・ウェズリー(tb)らが、シット・インした。
 その最終日である24日には、今やジャム・バンド・シーンでもスーパー・スターとなったジョン・スコフィールドが、やって来た。この日のウェットランズは、平日にもかかわらず、長蛇の列がのび、ジャズ・クラブとは違う若い観客層が、ダンス・フロアにあふれた。
 エリック・クラズノーとジョン・スコフィールドは、99年のバークフェスト・ミュージック・フェスティバルで、初めて共演した。スコフィールドは、アーシー&グルーヴィー なオルガン・トリオ、ソウライヴのサウンドが気に入り、99年末には、ソウライヴのファースト・アルバム「ターン・イット・アウト」(東芝EMI)に、ゲストで2曲参加。昨年6月の、ジャム・バンド企画ライブ "ジャミーズ"でも共演し、観客を興奮の坩堝に巻き込んだ。
 パフォーマンスは、レタスのメンバーが1曲演奏したあとに、スコフィールドが登場し、22年前のオリジナル曲 "フーズ・フー?"で、始まった。「たしかに俺が書いた曲だが、あまりにも前なんで忘れちまったぜ。」とスコフィールドが語るこの曲は、80年代のジョンスコ第一期ファンク時代の、先駆けを告げたファンキー・チューンだ。そして、シャープなアレンジの"カンタロープ・アイランド"、"フリーダム・ジャズ・ダンス"と続く。エリック・クラズノーのスタイルは、ウェス・モンゴメリー、ジョージ・ベンソンから、ナイル・ロジャース、ワウワウ・ワトソンと、幅広い影響を感じさせるが、ハーモニーからのアウト感覚は、スコフィールド譲りだ。彼らのバース交換ソロは、二人でアウトし、はるか彼方へたどり着いてから、また戻ってくるというスリリングさだ。
 スコフィールドは、ジム・ホール(g)と並んで、現代のシーンの中でもっともクリエイティヴなギタリストである、という確信をこの日に新たにした。その生み出すサウンドは、予定調和はけっして起きず、無限の想像力をかき立てる。DJのスクラッチのような、弦を爪でこする技や、フレーズ・サンプラーを多用した、抽象的な展開など、その尖鋭的なサウンドは、スコフィールドのアグレッシヴな、音楽へのスタンスの証だ。特筆すべきは、スコフィールドの若い世代のミュージシャンへの影響力であろう。この日のセッションでも、スコフィールドが加わるとともに、レタスのサウンドが、一段とタイトになり変貌を遂げた。共演する若いプレイヤーの、ポテンシャルを最大限に引き出す力は、往年のマイルス・ディヴィス(tp)を思わせる。スコフィールド自身も、「最近、自分をグループに登用した頃のマイルスの気持ちが、やっと分かるようになってきた。」と語っている。スコフィールドと、ジャム・バンド・シーンの関わりは、意識的に接近したというのではなく、80年代のグルーヴ・ファンク路線を、再び追求しようとしたときに、ジャム・バンド・ムーヴメントの若手に、スコフィールドの現在の方法論にフィットするプレイヤーがいた、ということであり、自然な流れで、共演することになったのだ。
 "アクチュアル・プルーフ"、"スライ"と、ハービー・ハンコック(kb)&ヘッド・ハンタースのナンバーが続いたあと、スコフィールド・バンドのレパートリーである"ホッテントット"で、2時間近いセットが終わった。ジャズ系のジャム・バンド・サウンドには、この選曲からも分かるように、ヘッドハンタースや、ウェザー・リポートらの70、80年代フュージョンへのオマージュが、感じられる。それらの素材を80、90年代のヒップホップの洗礼を受けた若い世代が、料理することによって新たな地平線が、見え始めたといえよう。今後の展開が楽しみである。(1/24/01 於 ウェットランズ)
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