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1999年  3月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

ビ・バップのエッセンスを口承伝授
バリー・ハリスのワークショップ

 ニューヨークのジャズ・シーンの奥深さ。それは、音楽の表現領域を拡大している最先端のミュージシャンから、40、50年代のビ・バップ、ハード・バップ・スタイルの伝統を継承しているミュージシャンまでが、まったく同等に共存しているところにある。チャーリー・パーカーらジャズ・ジャイアンツとの共演歴のあるヴェテランが、往時を彷彿させる素晴らしいプレイを今も聴かせてくれる。今回は、そんなプレイヤーのひとり、バリー・ハリス(p)が、"Keep The Frame"(伝統の火を絶やすな)を合い言葉に主宰しているワークショップをリポートしよう。

 バリー・ハリスは1929年生まれ。ハンク・ジョーンズ(ハリスの師匠)、トミー・フラナガン、中堅ではケニー・バロンら、数々の名ピアニストを生み出したデトロイトの出身である。デトロイト時代から、教育者としても評価の高かったハリスは、ニューヨーク進出後、コールマン・ホーキンス(ts)、デクスター・ゴードン(ts)、リー・モーガン(tp)らのグループのピアニストとして活躍する。その一方で、全米各地の大学で教鞭を執り、またヨーロッパでの短期集中のワークショップを行い、教育者としても多くのミュージシャンを育てている。
 1979年に始まったこのハリス自身の主宰によるワークショップは、ハリスがロードに出ているとき以外は、毎週公民館や学校、閉店後の楽器店などのスペースを借りて現在まで続いてきた。年会費が25ドル(現在は30ドル、以下同)、1回の参加費は7ドル(8ドル)、見学は1回10ドル(12ドル)と手頃なためか、1回のレッスン参加者は、プロから学生、趣味のアマチュアまで70人以上、登録会員は現在310名いるという。
 現在は毎週火曜日にレギュラー・スペースとしてリンカーン・スクェア・ネイバーフッド・コミュニティ・センターで、このワークショップは行われている。午後6時からピアノ・クラス、7時30分からのヴォーカル・クラス、9時30分から11時まで楽器によるインプロヴィゼーション・クラスとなっているが、時間区分はフレキシブルだ。

 今回見学したピアノ・クラスでは、アントニオ・カルロス・ジョビンの「ハウ・インセンシティヴ」が取りあげられた。ピアノに向かうハリスの周囲に生徒が集まり、ピアノの上には多くのテープレコーダーが置かれた。コールマン・ホーキンス(ts)のグループに在籍していた頃、ハリスはホーキンスから「コード・プログレッションを聴かせるのではない。その曲のムーヴメントを聴かせるのだ。」と常に言われていたという。その経験に基づいたバッキング・パターンは、シンプルでありながら、テーマ・リフをひきたて、また自身の存在を雄弁に語っている。ショパンの曲との関連性を解説したあと、参加者の一人に演奏させる。Dマイナーの解釈から、「ディア・オールド・ストックフォルム」へ曲の解説はかわり、そこから「スター・アイズ」へと話は飛躍した。ハリス自身の経験則による楽曲の構造分析は、如何に主調を美しく聴かせるか、ということに尽きる。
 続いて行われたヴォーカル・クラスでは、「マイ・フーリッシュ・ハート」の譜面が配られた。ハリスはなかなかの美声の持ち主で彼のリードでキーを替えて参加者全員で歌う。いつもはこのあとに、希望者が1人で歌い、そのアーティキュレーションをハリスが直し、曲を解説するのだが、この日はまた「スター・アイズ」、そして「ボディ・アンド・ソウル」と次々と曲をこなしていった。

 時間が押し気味で、10時から始まったインプロヴィゼーション・クラスでは、ハリスがスキャットしたビ・バップ・フレイズを、まず全員に演奏させ、さらに−」−氓フバッキングの上でも演奏させ、キーを替えて行くといった方法がとられていた。何人かをハリスが指名し、アクセント、リズム・アプローチをアドヴァイスする。ビ・バップのエッセンスを、テキストなしの口承伝授だ。
 ビ・バップ誕生の頃、チャーリー・パーカー(as)、ディジー・ガレスピー(tp)、セロニアス・モンク(p)らは、ダンス・ミュージックであるスィングにあきたらず、何が“ヒップ”で、何が“クール”か?という追求から、あのサウンドを生み出し、おそらくハリスのような教え方でミュージシャン達に伝えられていったのだろう。まず、サウンドがあり、そして理論付けは、あとになってから行われたのである。ニュー・スクールのジャズ科でも、ハリスのこのレッスン・スタイルを再現したクラスが設けられている。ハリス自身の機嫌に左右されることもあるが、基本的に1回完結なのでニューヨークを訪れた際に参加してみるのも一興であろう。(1/22/1999 於 リンカーン・スクェア・ネイバーフッド・コミュニティ・センター)

インフォメーション
The Harris Tradition (Barry Harris' Workshop)

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