2003年 5月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

鬼才スティーヴン・バーンスタインがMTO(ミレニアム・
テリトリー・オーケストラ)で音楽の時間軸を越える

 毎月出演する、フランチャイズ・クラブがあるグループを聴くと、サウンドがタイトになっていく過程や、リーダーのコンセプトの変遷が理解でき、より深く音楽を愉しめる。トニックや、ニッティング・ファクトリーを拠点として活躍し、今やNYアンダーグラウンド・シーンのカリスマ、スティーヴン・バーンスタイン(tp)率いる、ミレニアル・テリトリー・オーケストラを紹介したい。
 
 80年代から、90年代初頭にジョン・ルーリー(as)率いるラウンジ・リザースや、カーラ・ブレイ(p,arr)のベリー・ビッグ・カーラ・ブレイ・バンドで活躍し、NYのオルタネイティヴ・ミュー ジック・シーンで頭角を顕したスティーヴン・バーンスタイン(tp)は、90年代半ばにチューバ、ギターからなる変則トリオ、スパニッシュ・フライ、そしてプリンス、ローリング・ストーンズらファンク、ロックから、007のテーマなどの映画音楽、はたまたニューオリンズ・ジャズを、何でもどん欲に吸収し、自己のスタイルに料理してしまうグループ、セックス・モブでアンダーグラウンド・シーンのスターダムを駈け上がった。
 多くのジャズ・ミュージシャンが出演し1920年代、30年代を再現したロバート・アルトマン監督の1996年作品「カンサス・シティ」で、アレンジを手がけアーリー・ジャズへの造詣の深さを示したバーンスタインだが、模倣する前時代が存在していなかった、20年代、30年代のジャズは、もっともクリエイティヴであり、21世紀の音楽の進化への多くのキーがあると考えている。その持論を実践するために、99年の終わりに始まったプロジェクトが、このミレニアル・テリトリー・オーケストラ(MTO)だ。

 17人編成のジャズ・ビッグ・バンド・スタイルが確立する以前の、ニューオリンズ・スタイルをモデルとし、クラリネット、ソプラノ・サックスにルー・リード(vo,g)のグループにいたダグ・ウィセルマン、ヴァイオリンにMM&Wとの共演や、ブッチ・モリス(tp,arr)のグループにいるオルタナ系の雄チャーリー・バーンハム、本来はバンジョーのニュアンスをこの日はヴィンテージ・ギターで演奏し、渋いヴォーカルも聴かせてくれたダグ・ウァムブル、ミュートを多用したトロンボーンはNYのファース・コールのアート・バロンをフィーチャーし、空間型ドラマーのベン・ペロウスキーがボトムから包み込むという、一癖も二癖もあるサムライを集めた9人編成のグループである。結成以来、月2回のトニックでのギグを中心にしたレギュラー活動を続け、強固なアンサンブルと、フリーキーなインプロヴィゼーションの絶妙なバランスを築いてきた。

 この日のメニューは、ベニー・カーター(as,tp)、1926年作の「パデュカ 〜 チョコレート・ダンディーズ」、1928年にチャーリー・ジョンソン(p,tb)&ザ・パラダイス・バンドが発表した「ボーイズ・イン・ザ・ボート」、ファッツ・ワーラー(p)の「ヴィーパー・ソング」、グレイトフル・デッドの「リップル」、レイ・チャールズ(vo,p)の曲で、ダニー・ハザウェイ(vo)・ヴァージョンの「アイ・ビリーヴ」、ビートルズの「オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ」などで、雑食性を発揮している。20年代に、ポピュラーだったマーチやラグタイムのイントロ、リズム・セクションの演奏にテーマ提示、ブレイク、ソロ、そしてマイナー・キーへの転調など、30年代後半のビッグ・バンド・スタイルの確立期には失われたアレンジで、オールド・ソング、ニュー・ソングを問わず、再構成していく。エリントン・オーケストラのアレンジが、メンバーの個性に基づいていたように、MTOのサウンドも、フィーチャリング・ソリストに負うところが多い。バーンスタイン自身、スライド・トランペットという、トランペットの音色を出す小型トロンボーンのような、珍しい楽器を駆使し、シリアスに、時にユーモラスなソロを繰り広げている。ヘッドやソリにはシンプルなアレンジが施されているが、アドリブ・パートに入るとバーンスタインが次々にバッキングの指示を出し、相乗効果でソロを盛り上げ、次のソリストに廻す。コール&レスポンスを挿入したりと、アレンジをもインプロヴァイズするバーンスタインのスタイルは、音楽性だけでなく、エンタテインメントとしても高いクオリティを誇っている。60年代、70年代のロック、ファンク・チューンも、20年代のアーリー・ジャズ・スタイルに変換される。アドリブは、現代的なアプローチだ。音楽の時間軸を、縦横無尽に行き来する、サウンドのタイム・マシーンともいうべきスタイルは、MTOの強力なオリジナリティである。次のギグでは、どこに辿り着くのか?ミュージック・タイム・トラヴェラーの旅は続く。(3/14/2003 於Tonic, NYC)
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