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2004年 05月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

ソプラノ・サックスの聖人スティーヴ・レイシーと
異才デイヴ・ダグラスのモンクス・ミュージックの真髄

 今も独特の香華を放つセロニアス・モンク(p)の音楽、リスナーのみならず、ミュージシャンをも、その魅力の虜にする。ソプラノ・サックス・プレイヤー、スティーヴ・レイシーも、モンクス・ミュージックに魅了され、50年代末から、そのオリジナル曲集を録音している。レイシーのレギュラー・グループに、新作「ストレンジ・リベレーション」も絶好調なデイヴ・ダグラス(tp)を迎えたトリビュート・グループ、モンクシーランドが、ミッドタウンのクラブ、イリディウムに出演した。
 
 1940年代半ば、ハーレムのジャズ・クラブ「ミントン・ハウス」のアフター・アワー・セッションで、セロニアス・モンクは、チャーリー・パーカー(as)、ディジー・ガレスピー(tp)とともに、ビバップ誕生に大きく寄与する。リズミックに激しくスケールをうねらせる、パーカーやガレスピーのスタイルは、多くのフォロワーを生み、モダン・ジャズ・ヒストリーの中で主流をなすが、前時代のホンキートンク・ピアノの残り香を持ちつつ、音のない空間のバランスと、鋭いピアノ・タッチを生かした独自のアドリブ・スタイルを築いたモンクは、その強烈なオリジナリティゆえに、孤高の存在となった。モンクス・ミュージックは、インプロヴィゼーションもさることながら、時にユーモラスかつ特異なメロディを持つオリジナル・チューンに魅力があり、スタンダードとして多くのミュージシャンに取り上げられている。モンクの薫陶を受けたプレイヤーの代表格は、ジョン・コルトレーン(ts,ss)であろう。50年代後半、マイルス・グループの中で行き詰まっていたコルトレーンは、一時マイルスの元をはなれ、モンクのグループに参加する。多くの啓示を与えられ音楽的に開眼し、マイルス・グループに復帰を経て、自己のグループを結成、60年代を怒濤の勢いで駆け抜けていった。
 
 ヨーロッパでも評価が高いアヴァンギャルド・ミュージックの旗手、スティーヴ・レイシーも、セロニアス・モンクにインスパイアされた一人である。58年に「リフレクションズ」、60年に「スティーヴ・レイシー・プレイズ・セロニアス・モンク」という生前トリビュート・アルバムを捧げており、空間を生かしたアドリブと、音程が不安定なソプラノ・サックスを逆手にとったフレーズ構成は、モンクのソロ・コンセプトを、ホーン・スタイルに巧みに取り入れている。この日のモンクシーランドのメンバーは、ロスウェル・ルッド(tb)、ジャン=ジャック・アヴェネル(b)、ジョン・ベッシュ(ds)らの、レイシーと長年、共演しているミュージシャン達に加えて、80年代後半から、ジョン・ゾーン(as)のグループで頭角をあらわし、近年ソロで注目作を続けてにリリースしている、デイヴ・ダグラス(tp)が参加した。
 「モンクス・ドリーム」でファースト・セットの幕が開ける。ダグラスを先陣に、ホーン・プレイヤーがソロをとった。バックグラウンドで、オフのホーン・プレイヤーが、コンピングをする。トロンボーンのルッドが、モンクのユーモラスなバッキングのニュアンスを醸し出している。ソプラノ・サックス、トロンボーン、トランペットという3管のアンサンブルは、デキシー・ランド・スタイルから、ビバップ、フリー・ジャズと、モンクの独特の旋律と相まって、カメレオンのようにサウンド・テクスチャーを変化させた。コンテンポラリーで端正なアプローチのダグラス、フリーキーなレイシー、オールド・スタイルのルッドと、ソリストによって一曲の中で、時代が自由に行き来する。ハーモニーを支配するコード・インストルメントがいない構成が、功を奏していた。「シャッフル・ボイル」ドラム・ソロから始まる「イン・ウォークッド・バド」と、モンク・スタンダードが続く。ベッシュ(ds)も、グルーヴをスウィングさせるよりも、間を生かしたドラミングで、フロント陣をサポートしつつ、ソロを構成する。ベクトルが異なるソリスト達を結束させているのは、アヴェネルの安定したベース・ラインだ。レイシーのソプラノ・サックス・ソロの、シドニー・ベシェ(ss)を思わせるようなシンプルかつメロディアスなアプローチから、クォーター・トーンを使って大胆にスケール・アウトする構成を可能にしているのは、不動のアンカー・ポイント、アヴェネルのベースによるところが大きい。エンディングの、アップテンポ・スウィングの「スキッピー」では、3管の同時進行インプロヴィゼーションで、客席が湧きあがった。スティーヴ・レイシーとデイブ・ダグラスの2人のスタイリッシュなアーティストが、その音楽観に基づいてモンクス・ミュージックの懐の深さと、色あせない先進性を語る、サウンドのディベートには、まだまだ結論は出ない。(3/17/2004 於イリディアム, NYC)

 スティーヴ・レイシー氏は、2004年6月4日、肝臓ガンのため永眠されました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
 
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