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1999年  5月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

ジム・ホール&井上 智のギター・デュオ・ライヴ
イマジネーション豊かなギターの会話

 80年代半ばから現在にかけては、パット・メセニー(g), ジョン・スコフィールド(g), ビル・フリゼル(g)らギター・プレイヤーが、ジャズ・ミュージックの可能性の限界に挑戦していると言えよう。その現代ジャズ・ギター・シーンのゴッド・ファーザー的存在であるジム・ホール(g)が、The New Schoolにおいて本誌でも連載をもつ井上智(g)とのデュオ・コンサートと、先頃完成したドキュメンタリー・ヴィデオ 'Jim Hall, A Life in Progress'のプレミア上映を行った。その模様をリポートしたい。

 ジム・ホール(g) は4月下旬に、ライヴ、スタジオ両録音を含むパット・メセニー(g) とのデュオ・アルバムをリリースするが、今回の井上とのコンサートはプライベート・セッションの延長といった、よりカジュアルな演奏を聴かせてくれた。ホールと井上は、91年に井上がThe New Schoolでホールのアンサンブル・クラスに参加したことから交流が始まり、その後ホールの教則ヴィデオやお互いが担当する大学のクラスでのデモ演奏、プライベート・セッションでの共演を重ねている。 ホールは、メセニーとのアルバム発表の記者会見の席でも、現在注目している若手プレイヤーのなかに、井上智を挙げている。
 この日のステージは、中央に椅子が2つ、2台のギター・アンプ、MC用のマイクのみとシンプルな構成であり、小さなヴォリゥムで、繊細かつ緊張感に充ちたサウンドを生み出していた。プライベート・セッションでよく演奏していたスタンダート曲から、ホールと井上それぞれのオリジナル曲、井上のアレンジによる 「さくら」が演奏され、ベースとドラムスによるリズムの束縛から解放された、自由奔放でイマジネーション豊かなギター・カンバセーションが展開される。
 クラッシック音楽のバック・グランドをも持つホールのソロは、ハーモニーのインサイドで、テーマのモチーフを作曲したかのごとく、緻密に展開させていく瞬間と、対照的にフリー・ジャズのようにアウトサイドへ解き放たれて行く瞬間が、背中合わせに同居し、独特のスリリングさをリスナーに与える。このサウンド構成が、現在のジャズ・ギタリストに大きな影響を及ぼしているのだが、井上はリズム、ハーモニーの両面から絶妙のサポート・バッキングと、ソロを方向づけるインタープレイを聴かせてくれた。メセニーとの共演盤では、メセニーの方向づけによってハーモニーのインサイド寄りで演奏されていたワルツ・アレンジの 「オール・ザ・シングス・ユー・アー」はこのコンサートでも取り上げられたが、ホールはアドリブを大きくアウトサイドに展開させ、井上はまずアウト感を際だたせるために、インサイドでのバッキングから始め、ソロの進行にあわせて別の方向にアウトしてゆくというバランス感覚の優れたサポートでホールをインスパイアーする。
 井上のアドリブにおいては、ホールはドラムスのシンバル・レガートを思わせるコードをきざみ、リズムを強調したり、また少ない音数を効果的に使ったバッキングで、井上にインスピレーションをあたえている。筆者は、井上が89年にNYに拠点を移してから、その演奏にふれる機会を幾度かもった。 89年当時は、ウェス・モンゴメリー(g), ジョージ・ベンソン(g)らの影響を受けリズミックでアーシーなサウンドを志向していたが、ジム・ホールとの出会いから、従来のスタイルに加えて音のある瞬間と、ない空間の間を意識したプレイを身につけ、またジャズの歴史へのリスペクトからのスタンダード曲の引用を行うユーモアセンスなどによって、独自のスタイルを築き上げてきた。現在の井上の力量を再認識させられたのは、ソロ・パフォーマンスによるデューク・エリントン作曲の 'サンセット・アンド・ザ・モッキングバード' であった。ハーモニクスを多用して、余韻を持たせたテーマ呈示からモチーフの展開、ドラマティックでありながら静かに終焉へと向かうアドリブ構成は、ホールとのデュオと同じテンションを保っている。ステージ上から鋭い視線で見守るホールが、印象に残る。


 コンサートの緊張がさめないほどに始まった、ヴィデオ 「Jim Hall, A Life in Progress」は、前作 'バイ・アレンジメント' の98年の録音現場のドキュメントからパット・メセニー(g), ジョー・ロバーノ(ss,cl)ら共演者、スタッフのインタヴューを糸口として、ホール自身がこのアルバムで演奏を捧げたジャンゴ・ラインハルト(g), セロニアス・モンク(p), ビル・エヴァンス(p), ポール・デスモンド(as), アート・ファーマー(tp)らからの影響、交友と40年におよぶキャリアについて語り始めるという構成がなされている。50年代、60年代の貴重な演奏の映像が挿入され、またホールのプロ・キャリア・スタートに尽力したジョン・ルイス (p), チコ・ハミルトン (ds),  そのキャリアを高く評価し続けている評論家のナット・ヘントフらのインタヴューもホールのコメントを裏付ける。50年代半ばから、すでに現在のスタイルを確立していたこの孤高の天才は、ケニー・バレル (g), ウェス・モンゴメリー(g), グラント・グリーン(g)ら、太い音とリズミックなコード・アプローチを聴かせる当時の主流のスタイルからは異端の存在であり、現在のジャズー・ギター・シーンにおけるビル・フリゼール(g) に近い存在であったといえよう。 
 この日のパフォーマンスでも聴かれた、ジム・ホールのスタイルの源泉を実証するとともに、90年代のジャズ・ギター・スタイルの成立過程を検証しているドキュメンタリーである。
 40年の長きにわたって衰えないジム・ホールのクリエイティヴィティにただ脱帽する。(3/22/99 The New School, Tishmann Hall に於いて)

“Jim Hall, A Life in Progress” 
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