2003年 7月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

次世代のリズム・マスター、ベン・ペロウスキーが、
父フランクと組んだユニット"bop on pop"

 グリニッジ・ヴィレッジの一角にある、カジュアルなフレンチ・レストラン、コーネリア・ストリート・カフェ。その地下には、こぢんまりとしたパフォーマンス・スペースがあり、毎夜ジャズや、ポエトリー・リーディング、フィルム上映、ダンス・パフォーマンスが上演されてる。父子で登場したフランク・ペロウスキー(ts,ss,cl)と、ベン・ペロウスキー(ds)のユニット、"bop on pop"をリポートしたい。
 
 ウェスト・ヴィレッジともいわれるこのエリアは、O・ヘンリーの短編集の舞台を思わせる、都市部のアメリカン・クラッシックな古いアパートと、レストラン、ブティックが並ぶロケーション だ。昔から芸術家やボヘミアンが集い、移り変わりの激しいマンハッタンの中で、ここでは長く続いている店が多く、コーネリア・ストリート・カフェも開店26年で、パフォーマンスも15年にわたって続いている。ジャズでは、ジョー・ロヴァーノ(ts)夫人のジュディ・シルヴァーノ(vo)のヴォーカル・ワークショップ、ウォルフガング・ムースピール(g)・グループら、アヴァンギャルドから、ラヴィ・コルトレーン(ts)、リック・マルギッツァ(ts)や、ブラジリアンのルシアーナ・ソーザ(vo)と、ヴァラエティに富んだラインナップが組まれている。
 ベン・ペロウスキー(ds)は、5月号で紹介したスティーヴン・バーンスタイン(tp)のミレニアム・テリトリー・オーケストラや、ウリ・ケイン(p)・トリオや自己のグループで、ダウンタウンのジャズ・クラブ・シーンでは、よく見かけるプレイヤーだ。ジョン・スコフィールド(g)のジャム・バンド・ユニットにも参加していたこともあり、今年は山中千尋(p)のサポートで、日本のファンにもおなじみとなった、繊細なドラミングと、スケールの大きなグルーヴを、バランスよく、様々なスタイルで構築できるセンスの良いドラマーである。父、フランク・ペロウスキー(ts,ss,cl)は、50年代半ばにアイオワ州デモインから、ジュリアード音楽院でクラリネットを学ぶためにNYに進出、アート・ブレーキー(ds)らハード・バップの洗礼を受ける。ブロードウェイ・ミュージカルやビッグ・バンドを中心に活動し、近年自らのレーベルJazzKeyを立ち上げ、意欲作をリリースしている。ベン・ペロウスキーのプロ・キャリアは、10代前半に父、フランクのグループでスタートしており、昨年にリリースしたアルバム”bop on pop "(JazzKey5080)では、25年ぶりの共演を果たした。アルバム・カバーの写真は今から約30年前の、ベン6歳の頃の親子のスナップ・ショットである。レコーディングは、ジョシュア・レッドマン(ts,ss)のエラスティック・バンドでの活躍で、ついにメジャーでもブレイクしたサム・ヤエル(org)とのトリオが、マイルス、パーカー、コール・ポーター、ホレス・シルヴァー、ファッツ・ワーラーのスタンダードを取り上げたアメリカン・ソング・ブック的趣向のアルバムであり、ヤエルのオルガンが、モダン・レトロな雰囲気を醸し出している。
 ライヴは、ケヴィン・ヘイズ(p)と、ダグ・ワイス(b)のクァルテット編成。シャープに切れ込むヘイズのピアノと、ベン・ペロウスキーのインターブレイが聴きどころである。ミュージカル「ガイズ&ドールス」からのスタンダード「イフ・アイ・ワー・ベル」が、オープニングを飾った。フランク・ペロウスキーは、太い音色で朗々と歌い上げる、いぶし銀のプレイを、スウィングするリズム陣ががっちりとサポートする。ワイスのウォーキング・ベースと、ベンのライド・ライドシンバルのコンビネーションが心地よい。ヘイズにソロがまわると、リズムがフレキシブルに細分化される。メロディ・ラインにテンション・ノートが多くなり、また早いパッセージにドラムが反応し、スリリングさが増す。3曲目の、「ザ・ジターバッグ・ワルツ」ではフランクはクラリネットでスウィング全盛時代を彷彿させ、ピアノ・ソロとのコントラストがより鮮明になる。一曲のうちで、サウンド・スタイルが50年ほど動いたような印象もうけるが、ベンのバッキングは、違和感なく絶妙のバランス感覚で、包み込む。同世代のセッション仲間であるヘイズと、ジャズ・ミュージックの手ほどきをしてくれた父、フランクを巧みにコネクトしている。客席も、ヘイズやベンのプレイ目当ての学生から、次々と演奏されるフランクの歌心たっぷりのスタンダード・ソングを、ワイン片手に楽しむ高年層まで、広いレンジで埋まっていた。最後の曲は、パーカーの「コンファメーション」。フォーバスのソロ交換は、仲のよい親子の会話のようにリラックスしている。ベン・ペロウスキーの素の姿が、かいま見えた。(4/30/2003 於 Cornelia Street Cafe)

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