2001年 8月号 Jazz Life誌 New York Report (未発行)

New York Jazz Witness

第2期NY時代を迎えた山下洋輔が、新たな
ビッグバンドを率いてジャズ・ギャラリーに登場

 88年から、"スイート・ベイジル"に、NYトリオでレギュラー出演していた山下洋輔は、"スイート・ベイジル"の閉店により、舞台を今年からライヴも始めた"ジャズ・ギャラリー"に移し、ビック・バンドを率いて、NYに登場した。今までのトリオ、カルテットのフォーマットから、第2期NY時代に突入した山下洋輔と、難曲揃いの山下のオリジナル・チューンに挑む、NYの精鋭達のライヴの模様をリポートしたい。


  数年前から、不動のNYトリオに、ジョー・ロヴァーノ、ラヴィ・コルトレーン(ts)らが参加し、次なる展開を模索していた山下洋輔に、当時、"スイート・ベイジル"のブッキング・マネージャーだったジェィムス・ブラウンはこう語った。「少し前に出演したサム・リヴァース(ts,ss)のビッグ・バンドは、素晴らしかった。あなたもそろそろビッグ・バンドを編成したらどうか?是非聴いてみたい。」このサジェスチョンが、山下がパンジャ・スウィング・オーケストラ以来、久しぶりにビッグ・バンドに取り組んだ、きっかけである。自己のオリジナル曲のアレンジを、洗足学園大の同僚である、松本治、道下和彦、栗山和樹、納浩一、香取良彦ら日本の中堅、若手のアレンジャーに依頼し、昨年秋のNYトリオ日本ツアーの際に、日本の若手メンバー中心のビッグ・バンドを旗揚げした。NYに乗り込み、百戦錬磨のNYのセッション・ミュージシャン達でグループを編成し、ライヴのあと、アルバムを制作するのが、今回のツアーだ。
 トランペット 2人、トロンボーン3人、サックス4人に、リズムが、パーカッションを入れた4人という編成のビッグ・バンドだが、セシル・マクビー(b)、フェローン・アクラフ(ds)のNYトリオをサウンドの中核とし、各ホーン・セクションには、ギル・エヴァンス・オーケストラ出身のルー・ソロフ(tp)、NYのアバンギャルド・シーンには欠かせない存在のレイ・アンダーソン(tb)、チック・コリア(p)の、"オリジン"で活躍する、スティーヴ・ウィルソン(as,ss)を配し、東京から帯同してアレンジをも提供した松本治が、トロンボーンと指揮を務めた。NYトリオのメンバーや、録音を担当しているデヴィッド・ベイカー、コントラクターのリッチ・オコンらの推薦からの人選だが、山下の音楽を表現するための適任者がよいバランスで、そろっている。
"ファースト・ブリッジ"、"フレグメンツ"、"カンゾー先生"、"インタールード"等の、新旧の山下のオリジナル・チューンが、斬新なアレンジと、それに応えるプレイヤー達によって、生まれ変わる。オーソドックスな、ビッグ・バンドとは異なり、整然としたホーンのソリの後ろで、山下がパーカッシヴなコンピングをしたり、ピアノ・ソロでは肘打ちが炸裂する、秩序とカオスが微妙なバランスで混在するサウンドが、展開された。 タッド・ダメロンの"If you could see me now.''では、セシル・マクビー(b)が、リリシズムたっぷりのリード・メロディを演奏し、このグループの別の側面を聴かせる。変拍子の難曲"クルディッシュ・ダンス"では、さすがのNYの猛者達も、手こずっているようだ。アンコールは、パンジャ・スウィング・オーケストラのテーマでもあった、エリントンの、"スィングしなけりゃ、意味がない"。打ち上げ花火のようにスウィンギーな演奏とともにパフォーマンスは終わった。
 数日後、マンハッタンの紀伊国屋書店で、偶然、山下氏と再会した。レコーディングは、大きな収穫をえて、終了したとのこと。秋には、是非ピックアップ・メンバーを呼び、日本の若手との混成メンバーで、ライヴをやりたいと、意欲的に語っていた。第2期NY時代の山下洋輔も、目がはなせない。

 (5/30 於ジャズ・ギャラリー)


The Jazz Gallery
tel.(212) 242-1063
290 Hudoson Street (below Spring st.)
New York, NY 10013

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