2000年  9月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

ラテンとアメリカン・ジャズの絶妙なブレンド
ヘクター・マルティノン率いる“フォーリン・アフェアー”

 現在のNY・ミュージック・シーンは、ラテン諸国出身のミュージシャン達を、抜きに語ることは出来ない。ヴィレッジのジャズ・クラブ、ジンク・バーは、この現状を反映して、ラテンのみならず、アフリカンなどのワールド・ミュージック系のグループを、ブッキングしている。今回は、ジンク・バーでの、マーク・ホイットフィールド(g)、マット・ギャリソン(el-b)を擁したコロンビア出身のピアニスト、ヘクター・マルティノンのグループ "フォーリン・アフェアー"のギグをリポートしたい。
 かつてのNYのジャズ・クラブ・シーンでは、代表的なクラブの一つであった"ヴィレッジ・ゲイト"で、毎週月曜日に"Salsa meets Jazz"と銘打って、先頃亡くなったティト・プエンテ(per)や、ウィリー・コロン(vo)ら、ラテン・ミュージックの大御所と、スタンリー・タレンタイン(ts)、フレディ・ハバード(tp)ら、ストレート・アヘッドなジャズ・ミュージシャンの共演を、実現してきた。常に様々な音楽の要素を、取り込み発展してきたジャズ・ミュージックの進化の過程に、少なからず影響を与えたと思われるこのライヴ・シリーズだが、ヴィレッジ・ゲイトがクローズした現在、ジンク・バーが積極的に、ジャズとワールド・ミュージックのボーダー・ラインにあるバンドを、出演させている。
 ヘクター・マルティノン(p)は、コロンビアに生また。ドイツでクラッシク・ピアノと作曲で、修士号を取得、ヨーロッパのジャズ・シーンで活躍の後、90〜96年にかけて、サルサ/ラテン・ジャズのビッグ・ネーム、レイ・バレット(per)のグループに在籍し、NYのディープなサルサ・シーンの中で過ごした。98年には、ポール・サイモン(vo,g)が、ラテン・ミュージックに取り組んだミュージカル"The Cape Man"のサポート・メンバーとして重要な役割を果たしている。
 

 この日のギグは、レギュラー・グループ"フォーリン・アフェアー"のメンバー、マーク・ホイットフィールド(g)、マット・ギャリソン(el-b)、パトリック・フォレロ(ds)に、スペシャル・ゲストとしてロランド・モラレス(per)と、アルゼンチン出身のシンガー、ガブリエラ・アンダース(vo)が参加し、より多彩なサウンドを聴かせてくれた。
 ラテン・フレイヴァーたっぷりのオリジナル・チューン"ワモッリタ"から、パフォーマンスは始まった。ソリッド・ギターでディストーション・サウンドのホイットフィールドは、タイトで鋭角的なフュージョン・スタイルのギターを、聴かせてくれ、フルアコでウォーム・トーンの演奏とは、異なる側面を見せる。マルティノン(p)は、強力なリズム陣をリードして、パーカッシヴで情熱的なソロをとる。五弦ベースを操るギャリソンは、ギターのコード・ソロの手法を取り入れたソロを聴かせてくれた。次々とオリジナル・チューンが、演奏される。16ビートのタイトなフュージョン・チューンでは、ホイットフィールド(g)とギャリソン(b)の、ファンキーな持ち味が遺憾なく発揮され、良質な80年代フュージョンを思い出させるサウンドが、展開された。マルティノン(p)はリズミック・アプローチだけでなく、独特のアウトとインの狭間を、さまようハーモニー・センスをも、聴かせる。モラレス(per)が、参加し、リズムがさらに分厚くなった。自らのオリジナル、"ブラジリア"で、ガブリエラ・アンダース(vo)がアンサンブルに加わる。ハスキー・ヴォイスの、インストルメンタルな、スキャット・アプローチで、グループにホーン・プレイヤーが、参加したようなイメージをもたらす。ここではマルティノンは、リリシズムあふれるプレイで、アンダースをサポートした。
 アメリカン・ジャズのミュージシャンのグループに、ラテン・フレイヴァーを添えるために、ラティーノを、起用するという手法は、古くから取られているが、この"フォーリン・アフェアー"は、ラテン系ミュージシャンが中心のグループのリズムの中核に、アメリカン・ジャズの中でキャリアを築いてきたミュージシャンを、据えている。ギャリソン、ホイットフィールドのリズム・センス、フレーズ・アプローチと、マルティノン、フォレロ、モラレスらのアプローチのコントラストと、そのリズム陣の上で、浮遊するようなアンダースのヴォイスが、サウンドの絶妙なブレンドを聴かせてくれた。ベースのギャリソンの替わりに、カメルーン出身の超絶技巧プレイヤー、リチャード・ボナを擁したこのグループの、バードランドにおける昨年のライヴの音源も、マルティノンのホーム・ページで、聴くことが出来る。是非チェックしてみて欲しい。
(7/20/00 於 ジンク・バー)

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