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1998年   9月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

一日の生活の中に自然に溶け込む
夏のイヴェント、“ジャズ・モービル”

 “ジャズ・モービル“が街にやってくる。JVCジャズ・フェスティヴァルの中のブライアント・パークでのフリー・コンサートを始めとして、夏のNYジャズ・シーンでは大規模な野外コンサートが盛んだ。しかしNYには、小規模ながら、地域に密着したイヴェントもある。その一つである“ジャズ・モービル”を今月は紹介しよう。

 1960年代のハーレムの状況を描写した、吉田ルイ子のルポルタージュ「ハーレムの熱い日々」の中のエピソードで、コミュニティの人々の夏の楽しみのひとつとして、“ジャズ・モービル”の話が出てくる。“ジャズ・モービル”とは、小さなステージを引っ張るトラックのことで、アート・ブレイキー(ds)&ジャズ・メッセンジャーズや、M.J.Q.(モダン・ジャズ・クァルテット)などがよく演奏していたという。今年で34年目になるこのイヴェントは、ヴィレッジ・ヴォイスやニューヨーク・タイムスなどにはスケジュールは掲載されず、FM局のスポット広告と電話インフォメーション、ウェッブサイト以外は、もっぱら口コミで情報が伝わる。7、8月の間は、月曜から金曜日の毎日午後7時からの夕暮れ時に、ハーレムだけでなく、クィーンズ、ブルックリン、ブロンクスと様々なロケーションで、フリー・コンサートが行われるのだ。
 今年も出演メンバーが充実しており、ジョン・ヒックス(p)、ルー・ドナルドソン(as)、ジミー・ヒース(ts)、エッタ・ジョーンズ(vo)、シダー・ウォルトン(p)らがすでに演奏し、バリー・ハリス(p)、ロイ・ハーグローヴ(tp)、ドナルド・ハリソン(as)、ミルト・ジャクソン(vb)らが7月下旬から8月にかけて出演する。今回は、ミッド・タウンに下りてきた“ジャズ・モービル”と、マンバーが全員女性のグループ“ジャズ・ベリー・ジャム・クァルテット”を紹介したい。

 フリー・コンサートが行われた47th ストリートと10th アヴェニューのコーナーは、ミッド・タウンの西側の経る図・キッチンといわれるエリア。7、8年前まではドラッグ・ディーラーと売春婦がたむろし、その名の通り、夜は治安が悪い区域であったが、都市再開発により古い廃墟のようなビルが取り壊され、瀟洒なコンドミニアムが建ち、ビルがリノヴェイトされ、安全な区域に生まれ変わった。
 ジャズ・モービルのコンサートは、日本的な言い方をすると、“町内会の夏のイヴェント”といった感じだが、このジャズ・ベリー・ジャム・クァルテットは集まった人々を盛り上げる女性だけのエンタテイメント・バンドだ。ビ・バップ時代のピアニスト、エルモ・ホープの夫人であったバーサ・ホープ(p)をリーダーとし、グエン・クリーブランド(vo)、カーリン・レイ(b)、ポーラ・ハンプトン(ds)といったヴェテラン女性のグループに、この日はスペシャル・ゲストとして、“スウィート”・スー・テリー(as)が加わっていた。ステージの前半はサキソフォン・クァルテットで、スタンダード・チューンとオリジナル・チューンを織りまぜて、軽快なスウィングやサンバを聴かせてくれた。このグループの面白さは、リズム・セクション全員がヴォーカルをとれることであろう。テーマをスキャットで歌ったりと、曲にヴァリエーションをつけて聴衆を飽きさせない。そこへ客席から、グエン・クリーブランドがステージに参加する。しっとりとしたバラッド・チューンを歌い上げたあとは、ファンキーなブルースで集まった人々を煽る。経る図・キッチンの地域の人々のほかにも、帰宅途中に引き込まれて足を止めた火と、ハーレムから聴きにやってきた固定ファン達が、喝采を浴びせる。クリーブランドが4、5曲プレイして、聴衆のヴォルテージを高め客席に戻ると、ドラムのハンプトンがソウルフルなリード・ヴォーカルを聴かせる。8時半を過ぎ、日没の遅い夏のNYにも夕闇が迫ってくる頃、スロウで「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」のテーマを歌ったあとに、スゥインギーな3人のスキャットで「オーニソロジー」のテーマになり、コンサートは終わった。
 広い公園などで、大規模なPAセッティングで、大勢の観衆の中で聴く野外コンサートとは違い、一日の生活の中に自然と溶け込んで、音楽をエンジョイさせてくれるのが、“ジャズ・モービル“である。(7/13/2002 於 West 47th Street & 10th Avenue)

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