2000年 10月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

ジャム・バンド・シーンの中心グループが一堂に会した
バークシュア・マウンテン・ミュージック・フェスティヴァル

 ジャム・バンドというムーヴメントが、NYタイムスや、アメリカの音楽誌で認知されはじめて1年がたった。アメリカ各地の、アンダー・グラウンド系のクラブを席巻している、このムーヴメントが、本格的に動き始めた98年からスタートした、バークシュア・マウンテン・ミュージックフェスティヴァルは、今年3回目を迎え、50以上のバンド、1万人近くの観客を集めて、大盛況であった。この模様と、ジャム・バンドとジャズ・ミュージックをめぐる状況を、今回はリポートしたい。
 
 ジャム・バンドのジャムとは、ジャム・セッションのジャムである。このムーヴメントに、総称されるグループは、ファンク、ロック、フォーク、ブルー・グラス、ジャズ、ヒップ・ホップと、様々なバックグランドがクロスオーヴァーしており、全てのグループを、音楽的にカテゴライズすることは、ほとんど意味をなさない。ジャムの言葉どおり、ジャンルが違っても共演をすることが可能なのだ。70年代のヒッピー・カルチャーの中の伝説的なグループ、"グレイトフル・デッド" を、ルーツに持ち、そのスピリットを現代に継承しているバンドが、"Phish"(フィッシュ)であろう。数年前のフィッシュのツアーの、オープニング・アクトを、メデスキー、マーチン&ウッド(MMW)が務めたことによって、フィッシュのリスナー層に、インプロヴィゼーション・ミュージックのインパクトを与え、新たなファン層を獲得した。フィッシュのメンバー達が、MMWのファンであり、コンサートの前に彼らのテープをかけていたことから、実現したオープニング・アクトだったのだが、これをきっかけとして、ジャム・バンドといわれるグループの一群の中に、ソウライヴ、セックス・モブ、ジャズ・マンダリン・プロジェクト、ストリング・チーズ・インシデント、ディープ・バナナ・ブラックアウトなど、の本格的なアドリブを聴かせるグループが、多く現れるようになってきた。これらのグループの支持者は、バークシュアのフェスティヴァルの、観客層に見られるように、70年代のヒッピー世代に憧れる大学生ぐらいの年齢層が中心である。彼らは、"A Go Go"で、MMWと共演したジョン・スコフィールド(g)も、「あのMMWとやっている、クールなギターは誰だ?」といったきっかけで、ジャズ・ミュージックに、興味を持つことなっていったのだ。スコフィールドは、その柔軟な音楽姿勢によって、最新作"ヴァンプ"には、セックス・モブ、ディープ・バナナ・ブラックアウトのメンバーを起用し、このリスナー層のヒーローにもなった。ジャム・バンドの支持者の中には、テーパーといわれる録音マニアがいて、彼らがレコーディングしたライヴ音源が、それぞれのウエッブ・サイトで、MP3によって公開されたり、テープ交換が行われ、多くのグループが、メジャー契約を持たないながらも、インターネットの口コミを通じて、リスナーをふやしていった。今回のフェスティヴァルでも、レコード店の店頭では、CDが手に入りにくいディープ・バナナ・ブラックアウトに1万人近い観衆が熱狂し、またプロ顔負けの録音マイクが、林立する光景には少なからず、驚かされた。キャンプをして、野外イヴェントを、楽しむ形式も、70年代のグレイトフル・デッドのファン・スタイルのリヴァイヴァルといえよう。
 

 ジャズよりのミュージシャン達の、音楽スタイルの中にも、70年代の痕跡を多く見出すことが出来る。ジェイムス・ブラウン(vo)の、ファンク・R&Bから、フュージョン・ミュージックまで、様々な要素を内包している。ターン・テーブルという楽器を駆使して、ジャズ的傾向を持つ、ほぼ全てのジャム・バンド・ミュージシャンと共演しているDJロジックのサウンドには、混沌としたカオスの中で、一発もののソロが続き、それがロジックのターン・テーブルをきっかけとして、忽然とサウンド・カラーを変えていくという、70年代のマイルス・ミュージックのスタイルへの、指向が感じられる。しかし、彼らの音楽の中には80年代、90年代のヒップ・ホップの洗礼を、受けた世代のビート感があり、それが若いリスナー層をダンサブルに鼓舞し、支持をえている。
 NYにおいては、ジャズ・クラブや、コンサートの価格が高騰し、若い世代が身近にジャズのライヴ・パフォーマンスに触れる機会が遠くなってきている。次の世代の、ジャズ・ミュージックの可能性は、ジャム・バンドの流れの中に、ひそんでいるのかもしれない。
(8/11〜8/13/00 於 マサチューセッツ州
バターナッツ・ベイスン・スキー場)

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