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1997年   10月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

ブラジリアン・サマー・イン・ニューヨーク

 夏のニューヨークも、季節柄か興味深いブラジル音楽のライヴ、コンサートが企画されている。今回は、大ホールでのビッグ・イヴェントと、小さなクラブでのセッション・ライヴの2つを紹介してみたい。

 6月のJVCジャズ・フェスティヴァルには、毎年必ずブラジル音楽の企画コンサートが組まれている。アメリカではめったに聴くことの出来ないアーティストや、本国のブラジルでも珍しいビッグ・ネームのジョイント・コンサートが催かれる。今年は、カエターノ・ヴェローソがエヴリー・フィッシャー・ホールに出演した。ヴェローソは、94年にもジルベルト・ジルとのデュオ・コンサートを行っており、2人のヴォイス・ハーモニーが創り出す究極の美しいメロディは、ここ数年でもっとも感激した音楽体験だったので、今回のコンサートへの期待は高かった。ルイーズ・ブラジル(g)、ジャケー・モーエンレイバーム(cello)、ゼカ・アスンケオ(b)、マルセロ・ブラジル(ds)からなるオリジナル・グループを率いたヴェローソは、94年リリースの『Fina Estampa』(邦題“粋な男”)からの南米各国のスタンダード曲を中心に、「リンダ」などのオリジナルチューンをまじえて演奏した。曲によって、グループの編成がかわり、チェロ、う゛ぇろそのヴォーカルとギター、パーカッションだけのアンサンブルでは隙TOO他ヴェローソのふぁるセット・ヴォイスがホール全体に拡がってゆく。ブラジル人の聴衆が、同じ歌を静かに口ずさみ、コーラスとなる。美しいメロディがあれば、何も必要ないと思わされる瞬間だ。またメンバー全体が加わった編成では、大ホールならではの、聴衆を飲み込んだグルーヴが心地よい。シンプルなアコースティック・サウンドから8ビートのエレクトリック・サウンドまで、グループのサウンドは多彩だが、ヴェローソの美しいヴォイスがサウンドに統一性をもたらしていた。演奏時間は2時間近くに及び、現在のヴェローソが指向するサウンドのすべてを、堪能できるステージであった。(6/21/1997 於Avery Fisher Hall)

 ダウン・タウンのハウストン・ストリートと、ラガーディア・プレイスのコーナー近くにある小さなクラブ、 ジンク・バー(Zinc Bar)は、、NYの現在進行形のジャズ・サウンドに触れられる店だ。ヴァンガード、ブルー・ノート、スウィート・ベイジル(2002年現在閉店)などのメジャー・クラブに出演しているエスタブリッシュされたアーティストとは異なり、これから要注目の若手アーティストや、中堅どころのアーティストがリハーサルを兼ねた実験的なサウンドを試すスペースとして、ブッキングを行っている。多くのミュージシャンがハング・アウトし、誰がどのようなことをやっているのか、あるいは自分のバンドに加えたくなるようなミュージシャンはいないかと、などとチェック・アウトする場所でもある。ジョージ・ベンソン(g,vo)や、パット・メセニー(g)、ランディ・ブレッカー(tp)など思わぬビッグ・ネームに出くわすことがある。
 毎週末は、NY在住のブラジリアン・ミュージシャンを集めたセッションが組まれている。筆者が聴きに行った日曜の夜には、シジーニョ・ティーシャラン(kb)・バンドが出演していた。アナ・フランス(vo)、レオ・トラベルサ(b)、ポリーニョ(ds)らがメンバーだ。60年以降のトラディショナル・ブラジリアンという印象のヴェローソの演奏とは対照的な、セザール・マリアーノ以降のコンテンポラリー・ブラジリアン・フュージョンといったサウンドで、ジョビンからジャバンのナンバー、それにオリジナル曲を演奏していた。ギターのいない編成のためか、キーボードがリズミックなバッキングでサウンド・カラーリングを施しており、またドラムスのポリーニョは、普通のサンバとは異なったアティーキュレーションで、毒とくんグルーヴをたたき出していた。アナ・フランスのハスキー・ヴォイスは、リラックスした聴きやすいサウンドを創る・当日集まっただけのセッションとは思えないリズムの一体感を感じるユニットだ。
 カウンターや立ち見はノー・チャージということもあり、客もそれぞれがサウンドを楽しんだり、飲んだり、おしゃべりに興じたりと、フォーマルなホールとは違った、カジュアルにブラジリアン・コンテンポラリー・サウンドを堪能できるセッションだった。 (8/10/1997 於Zinc Bar)

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