1998年  10月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

軽快なスウィングで、NYの夏の終わりを
彩った、ミルト・ジャクソン・クァルテット

 野外コンサートが、多く開催されたNYジャズ・シーンの夏も、8月いっぱいで幕を閉じた。ブランフォード・マーサリス・クァルテットをフィーチャーした、フリー・コンサートを行った“パナソニック・ヴィレッジ・ジャズ・フェスティヴァル”、“チャーリー・パーカー・ジャズ・フェスティヴァル”、“ダウンタウン・ジャズ・フェスティバル”など、数々の個性豊かなジャズ・フェスが、それぞれ盛況のうちに終了した。前回リポートしたジャズ・モービルも、8月の第4週で今年のライヴを終了したのだが、今回はその後半のハイライトであった、ミルト・ジャクソン・クァルテットのライヴの模様を紹介しよう。

 ミルト・ジャクソン(vib)・クァルテットのコンサートは、ジャズ・モービルの本拠地である、ハーレム西側のリヴァー・ドライヴ沿いのグラント将軍記念墓地公園で、1000人以上の聴衆を集めて行われた。午後7時スタートのパフォーマンスに、6時前からハーレム・コミュニティの人々が、いすを持ち寄って集まっており、レモネードやソウル・フードを売るヴェンダー(屋台)から、ハーレムならではの黒人問題を扱った専門書店や、プロパガンダ、スローガンをプリントしたTシャツを売る店などが立ち並び、ブラック色濃い雰囲気がちょっとしたフェスティヴァル気分を盛り上げる。

 7月より日没が早くなり、秋の気配を感じるアンバー色の夕日に包まれたステージに、ミルト・ジャクソンが姿を現す。ジェイムス・ウィリアムス(p)、ボブ・クランショウ(b)、ケニー・ワシントン(ds)というレギュラー・メンバーだ。数々のスタンダード・チューンを、ストレート・アヘッドな4ビート、ボサ・ノヴァ、アコースティック・ファンクといったリズムで演奏する。クランショウとワシントンのタイトなリズム・キープの上で、ウィリアムスはアップライト・ピアノとは思えない美しい音のソロをとり、ジャクソンは軽快にスィングする、ダウンタウンの高級ジャズ・クラブとは違った、コミュニティ内ならではのリラックスしたプレイだ。千人を越すオーディエンスもそれぞれのスタイルで音楽をエンジョイし、レスポンスもダイレクトである。カメラやヴィデオの持ち込みが制限されるホール・コンサートとは異なり、アウト・ドアのフリー・コンサートなので、撮影が野放しであった。ミュージシャン側の要望で、ヴィデオ・カメラをオフにしないとコンサートを途中で止めるというアナウンスがながれる一幕もあったが、全体的にはよいムードで進行していった。
 8時を過ぎる頃、さらにふくれあがったオーディエンスの上にも夕闇が迫り、ライティングは公園の街灯と、ステージの天蓋の蛍光灯のみと少し侘びしいが、サウンドと観客の熱気は衰えない。この日の最後の曲は、ミルト・ジャクソンのニックネームを冠したブルース、「バグス・グルーヴ」。クールにプレイするジャクソンに、聴衆はホットにレスポンスする。パフォーマンスのあと、家路につく人々の中で、あと1週間と少しのジャズ・モービルのスケジュール表を手に入れ、NYの夏の終わりが近いことを実感した。(8/19/1998 於 Grant's Tomb)

 ミルト・ジャクソン氏は、この約一年のちの99年10月9日に、肝臓ガンによりNYにて他界されました。享年76歳、慎んでご冥福をお祈りいたします。

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