1999年  10月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

音楽と、モダンアートのインスタレーション
近代美術館中庭でのグラハム・ヘインズ・グループ

 8月も後半に入り、めっきり秋めいてきたNYだが、夏の最後を飾る恒例のイベントといったら、パナソニック・ヴィレッジ・ジャズ・フェステヴァルがある。ヴィレッジ界隈の、大小のジャズ・クラブが参加して行われるこのフェステヴァルは、今回リポートするオープニング・イベントの、近代美術館の中庭で行われた、グラハム・ヘインズ(tp)・トリオの演奏から、レジーナ・カーター(vln.)と、チック・コリア(p)&オリジンのワシントン・スクエア・パークのクロージング・コンサートまで、1週間にわたって様々なイベントが、企画されている。2回にわたって、その模様をリポートしたい。

 このヴィレッジ・ジャズ・フェステヴァルは、80年代に始まり、一時中断していたが、94年からパナソニックがスポンサーとなり、今年で再開6回めを数える。世界のジャズの中心であるヴィレッジ・エリアの、ヴィレッジ・ヴァンガードや、スウィート・ベイジルなど老舗のクラブから、スモールズ、ジンク・バーなどの新興クラブが、より強力なラインナップを揃えるだけでなく、フィルム上映、レクチャー、ギャラリー・ショウ、ジャズにまつわる名所旧跡をまわるウォーキング・ツアー、詩の朗読と音楽のコラボレイションと盛りだくさんな企画が、1週間のあいだ続く。近年、JVCジャズ・フェステヴァルや、ニッティング・ファクトリーの主催するNYジャズ・フェステヴァルが、このようなプログラムを盛り込み始めたが、ライヴだけでなく、多角的にジャズ・ミュージックの魅力を、より多くの人々が楽しめるフェステヴァルとしては、NYでは先駆的なイベントである。

 かつて近代美術館では、デューク・エリントン(p)、ソニー・ロリンズ(ts)、モダン・ジャズ・クァルテットらが、演奏をしたことで知られ、1週間のフェステヴァルの、キック・オフとして企画されたのが、今年のJazz at MOMA(The Museum of Modern Art の略)の秋のシーズンの第1回のプログラムでもあり、グラハム・ヘインズ・トリオの昼下がりの、中庭であるスクラプチュア・ガーデンにおけるコンサートである。ロダンから、ジオコメッティ、ピカソらの彫刻から、催されている企画展の、ポスト・モダン・デザインの車の展示、野外のカフェ・テリアでランチをとって休憩する人々に囲まれて、ライヴは始まった。
 グラハム・ヘインズ(tp)は、80年代にスティーヴ・コールマン(as)や、グレッグ・オズビー(as)らM-Baseグループと行動を共にし、ニッティング・ファクトリーのギグでも、CGヴィデオとシンクロした演奏を、DJの入ったグループで行ったりと、アンダーグランド領域での先鋭的な活動が、印象に残っている。

 この日は、イタリア人で、クラッシク音楽のバック・グランドを持つルーファス・カパダチォ(cello)、アフリカン・パーカッションを操るダニエル・モリノ(per)からなるトリオを中心に、ゲストとしてスロベニア人で、アラビアン・ウード奏者のイゴール・レオナルディ(oud)が、参加したメンバーで、エスニック・フュージョンとも言うべき音楽を、演奏していた。静かなコルネットの、シンプルなメロディが奏でられ、チェロが、ピッチカートでペンタトニック音階をきざみ、パーカッションがサウンドに色づけをしていく。MOMAのあるミッドタウン・エリアの午後は、オフィスとショッピング街に囲まれて、大都会の喧噪のまっただ中にあるが、遠くに聞こえる工事音も、まるでグループ・アンサンブルの一部のように、取り込まれている。ヒーリング・ミュージックとしての側面もあわせもった、プレイである。 カパダチォのアルコ・ソロになると、ヘインズが、ペンタトニック音階のバッキングをする。このトリオのサウンドは、コルネットとチェロの対話に、パーカッションが絡むことをきっかけとして、シンプルなリフが展開して、意外な方向へと導かれてゆく。
 続いて演奏された曲では、モリノがアフリカのマリの民族楽器である、カメラグンという弦楽器をもちいて、サウンドの対話に参加する。西欧楽器であるコルネットと、チェロのサウンドに不思議なマッチングを、聴かせてくれた。アラビアン・ウード奏者の、レオナルディが参加し、よりモーダルな曲へと、移行していく。このウードという楽器は、複数弦の10弦で、フレット・レスのマンドリンに似た形状の弦楽器だ。ヘインズは、フリューゲル・ホーンに持ち替え、よりソフトでウォームな、サウンドでリフをとる。心臓の鼓動や呼吸音を思わせるゆったりとしたリズムと、ハイ・ノートを排除して、中低音域に集中したアンサンブルは、瞑想へと誘うかのようである。彫刻や、ポスト・モダン・デザインの車と同様に、音楽が、この中庭にオブジェとして展示されているかのように思わされ、空間の中で一体となったインスタレーションが、構築された。アンコールでは、カパダチォ(cello)の、ボウで弦を叩くように弾くことによってスラッピングのニュアンスを出す奏法と、モリノ(per)との白熱したインター・プレイがフィーチャーされ、サウンドが徐々に空間の中から遊離して、日常へと回帰した。

 Jazz at MOMAシリーズは、9月から毎週金曜日の午後5時30分より催かれる。サム・ニューサム(sax)や、リンカーン・センター・ジャズ・オーケストラのピック・アップ・メンバーによるライヴが予定されている。また近代美術館では、金曜の午後4時30分から8時15分までは、定額の入館料ではなく、任意の寄付金額を払えば入館できる。今年後半に、NYを訪れる方は、ジャズ・クラブや、コンサート・ホールとは、異なった空間でのパフォーマンスと、モダン・アートをエンジョイすることをお奨めします。
(8/23/99 於 近代美術館スクラプチュア・ガーデン)

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