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2003年 11月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

ラージ・アンサンブルの新たな視点
ジェイソン・リンドナー・ビッグバンドの挑戦

 94年からウェスト・ヴィレッジで、有能な若手ミュージシャンをシーンに送り出してきたジャズ・クラブ 、"スモールズ"は惜しまれつつ、家賃高騰のため今年の5月で、その歴史の幕を下ろした。2000年に近くのビリヤード場の一角につくられた、姉妹クラブ”ファット・キャット”に、6月から出演ミュージシャンから、店の内装まで移転して本格的に再始動した。スモールズ時代からの常連、ジェイソン・リンドナー・ビッグバンドの充実したステージの模様をお届けしよう。

 酒類は出さず(持ち込みはOK)、リーズナブルなミュージック・チャージを提供し、旬な若手をフィーチャーして、レギュラー・セットのあとは朝までのジャム・セッションと、"スモールズ"はメジャー・クラブとは一線を画して、NYのジャズ・シーンに大きな足跡を残してきた。この店を拠点としてきたアーティストは、ラリー・ゴールディングス(org)、ピーター・バーンスタイン(g)、ブライアン・ブレイド(ds)、サム・ヤエル(org)、カート・ローゼンウィンケル(g)、マーク・ターナー(ts)、アヴィシャイ・コーエン(b)、ジェフ・バラード(ds)と、90年代ジャズの潮流の一つを形成している。
 "ファット・キャット"は、"スモールズ”から4,5ブロックほどのところにあるビリヤード場の、一角を区切ってつくった週末だけのバーとして、2000年10月に開店した。当初は防音もしっかりしておらず、ビリヤード場の玉を突く音が聞こえ、エアコンが効かなかったりと、まるで学園祭の模擬店であったが、体裁を整え音響も良くなってきた。6月からは、月曜定休以外はライヴも増え、週末にはジャム・セッションも復活した。毎週月曜にスモールズに出演していた、ジェイソン・.リンドナー(p,org)のビッグバンドも、木曜に時間帯を替えファット・キャットに引っ越してきた。
 
 ジェイソン・リンドナーは30歳、新世代のビッグバンド・アレンジャーとして、注目されている。スモールズ開店当時から、アヴィシャイ・コーエンやジェフ・バラードと出演し、95年からはビッグバンドのレギュラー枠を獲て、アンサンブルを堅固に築きあげてきた。98年に、インパルスが制作したコンピュレーション盤"Jazz Underground, Live at Smalls"で評価されGRPと契約、アルバム"プリモニション"をレコーディングするも、レーベルの事情でオクラ入りとなり、2000年にチック・コリアのレーベル、ストレッチからリリースされた。
 このビッグバンドは、8ホーンと3リズムもしくはパーカッションという11、2人の、ラージ・コンボ的な編成だ。アンサンブルの厚みと、インプロヴィぜーションのバランスがとりやすく、フットワークが軽いベスト・コンビネーションである。ピアノの長い導入部から、ワイルドなブーガルーの「ソング・フォー・アモス」がオープニングだ。咆吼するラッフェ・ミルキルのトロンボーンの熱いソロから、ディエゴ・ウルコラのトランペットに渡る。ホーンのコンピング、リズミックなピアノ・ソロ、アンサンブル・バートへと続く。20分以上の曲だが、様々な仕掛けが施されており、冗長な印象はない。ラテン・チューン「スヘイア」では、ウルコラ(tp)と、ソプラノに持ち替えたジェイ・コリンズが、スピード感たっぷりのソロ交換を繰り広げた。キューバ出身のアルト、ヨスヴァニー・テリーは、絶妙なシェイカー捌きでリズム・ソロも聴かせる。
 リンドナーは、ピアノではパーカッシヴなバッキング、オルガンではロング・トーンを多用して、ホーン・アンサンブルと相似形をなすコード・ワークと、楽器を使い分けている。50年代のディジー・ガレスビー(tp)やタッド・ダメロン(p)のラージ・コンボや、メルバ・リストン(tb,arr)によるアレンジのランディ・ウェストン(p)・グループや、エディ・パルミエリ(p)・オーケストラなどのラテン・バンドの影響から、リンドナーは独自のサウンドを確立してきた。8ホーン・プラス・パーカッションも入るリズムという編成は、ラテン・ギグ経験からのアイディアだ。ホーン・セクションにはアレンジ譜があるのだが、リズムにはなく、フロントにあわせてインタープレイを聴かせる手法もラテン・スタイルで、エリック・マックファーソン(ds)と、マット・ペンマン(b)が、スポンテニアスに素晴らしい音楽対話を交わしていた。リンドナーは、高卒後の数年間、バリー・ハリス(p)のワークショップで助手を務め、ビ・バップの口承伝授を受けている。ガレスビー、ダメロンへの敬意は、リンドナーの音楽的骨格の主要部分だ。ゴスペル調の3曲目、「ポエム・フォア・ユー・トゥデイ」では、コリンズ(ts)が渋い喉を聴かせ、スウィング・ブルース「ユー・ニア・ブルー!」で、セットは締められた。グループのサウンドは、98年のアルバム"Premonition"から、柔軟でワイド・レンジにドラスティックな進化を遂げ、充実をみせている。次回のレコーディングに期待したい。(9/18/03 於Fat Cat, NYC)
 
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