1997年   12月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

50~60年代のモンクのドキュメント
"The Jazz Gallery"モンクス・ワールド展

 ビ・バップ・ムーヴメントから、フリー・ジャズ全盛の1960年代まで、ジャズがヒップな文化として、他のアート領域と連動していた時代があった。チャーリー・パーカーにインスパイアされた詩を書いたアルゼンチンの詩人フリオ・コルターサルやアメリカン・モダン・アートの絵画や彫刻の諸作品の中にも、コンセプトの上での共通項を見いだすことができる。今回紹介する"The Jazz Gallery"は、現代の作家達のジャズ・ミュージックへのオマージュといった、アート作品や写真などのギャラリー・ショウを企画し、またその作品に囲まれた中でライヴも行うといった、非営利団体が運営するアート・スペースだ。

"The Jazz Gallery"は1995年8月にオープン。ソーホー地区とトライベッカ地区のちょうど中間、1972年まであったジャズ・クラブ”"ハーフ・ノート"飲む快に位置する。常設ではなく、企画があるときだけ1ヶ月〜2ヶ月限定オープンという形式。(現在は毎週末オープン)「ティン・パン・アレイとその周辺展」、ディジー・ガレスビーとクロス・アトランティック・リズム展」、「ジャズ・ピアノに捧げるマルチ・メディア展」、そして今回の「モンクス・ワールド展」と、これまでに5つのショウを企画してきた。モンクス・ワールド展以外の4つのショウの主催者であり、代表のデイル・フィッツジェラルド氏は、ロイ・ハーグローヴのマネージャーでもあり、ライヴのプロデュースも彼が行っている。ディジー・ガレスビー展の時には、キューバのミュージシャンを呼び、NYのグレイグ・ハリス、アンドリュー・シリルらと共演させたり、今年8月のヴィレッジ・ジャズ・フェスティヴァルの会期中のジャズ・ピアノ展では、8月16日〜24日の間、マルグリュー・ミラー、スティーヴン・スコット、D.D.ジャクソン、ジェイムス・ウィリアムスらのピアニストが、毎晩ソロもしくはデュエットで演奏した。ジャズ・クラブとは違った雰囲気の中での演奏は、プログラム同様、他では観られない興味深い企画であり、プレイヤーがアート作品にインスパイアされて、意外な相乗効果をうむといった瞬間も見受けられた。

 10月9日から始まったモンクス・ワールド展はフォトグラファーのリー・ターナーの主宰で、ウィリアム・ゴットリーブ、ウィリアム・クラクストン、ハーb・スニッツアーら、22人のフォトグラファーによるグループ展である。クリント・イーストウッドのプロデュースによるセロニアス・モンクのドキュメンタリー映画「ストレート・ノー・チェイサー」にも観られるように、モンクはその個性的な音楽スタイルとともに、奇矯な人柄でも知られたミュージシャンである。この写真展でも彼の全盛時代である1950〜60年のステージやリハーサル・スタジオにおける彼のドキュメントとして、貴重な写真が展示されている。写真におさめられた、見るものを射抜くような鋭い眼光を湛えたステージでの表情や、ユーモラスなオフ・ステージでの表情には、モンクの音楽表現と同一の理性と狂気が共存しており、写真からもそのサウンドを感じ取ることができるのだ。ひとりひとりの写真家が浮かび上がらせるモンク増の相違がこのアーティストの魅力をさらに際だたせている。
 "The Jazz Gallery"は、今年に入ってから、カーメン・マックレイが自宅で愛用していたピアノと、昨年秋にクローズしたピアノ・サウンドでは、ベストであったジャズ・クラブ"ブラッドリーズ"のハウス・ピアノを手に入れた。今回も10月26日にロニー・マシューズが、モンクのイメージに囲まれてソロ・ピアノ・ライヴを行ったばかりだ。
 
 
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