2001年 4月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

プリミティヴなリズム・エクスタシー
チャーリー・ハンターの拡がり続ける
グルーヴ・オリエンテッド・ミュージック

 この2年ぐらいの間、NYのみならず全米各地で、ビートにのってダンスするというリスニング・スタイルで、若い観客層に支持を得ているインプロヴィゼーション・ミュージックが、台頭してきた。これをリスナー側からの、命名でジャム・バンドといい、本コラムでも何度か取りあげてきた。今回は、ジョン・スコフィールドからディアンジェロまで幅広い人脈を誇る、シーンの重要人物の一人、チャーリー・ハンター(g)を取りあげたい。
  
 1月下旬から2月中旬にかけて、チャーリー・ハンター・クァルテットは、毎週木曜日に4回にわたって、今や最新トレンドの発信エリアとなったトライベッカ地区ののクラブ、No Mooreに出演した。ヴィレッジ・ヴォイス誌等にも大きく告知されたわけではないが、週をおうごとに口コミからか20代前半ぐらいの客層で、吹き抜けになっているフロアは一杯になった。ミュージシャンが、チェックしに来ている姿も見かけ、客席にはDJロジック、マット・ギャリソン(el-b)らがおり、ステージにはサム・ニューサム(ss)やトパーズ(ts)が、シットインした。昨年からハンター・グループは、ジョン・エリス(ts)、ステファン・チョペック(ds)、クリス・ラヴジョイ(per)という編成で、ツアー・サーキットを廻っている。
 バス・ドラム、スネア・ドラムに、ライド・シンバルのみという変則セットのチョペックと、ラヴジョイのコンガが叩き出す、強烈なパーカッション・アンサンブルから、セットは始まった。ポリリズムのグルーヴの中に、ハンターのシンプルなベース・ライン、ギター・コードがのり、パルスがハーモニーに進化を遂げ、エリスのサックスが、旋律をを支配し、音楽が生成される。サックス・ソロ、ギター・ソロと続くうちにビートは加熱し、ハンター自身がタンバリンでもソロをとり、サックスのエリスはカウベルを乱打し、パーカッション・アンサンブルに、音楽は解体されていく。音楽の変貌の過程が、ドラマティックに演出されている。
 
 チャーリー・ハンターは、ベース弦が3本、ギター弦が5本の8弦ギターを操る異能のギタリストという捉え方をされているが、そのパフォーマンスは、特殊技術のデモンストレーションではなく、ハンターの音楽を表現するために重要なインストルメントであることを、認識させてくれる。機能的には、ベース・ラインと、コード・ワーク、シングル・トーンを演奏し、オルガンに酷似しているが、ギターならではの、シャープでリズミックなアプローチが可能である。そのベース・ラインと、コード、メロディのコンビネーションは、どんなベーシストとギタリストのアンサンブルでも出せない、絶妙なバランスの上に成り立っている。一人二役から、複雑なベース・ラインや、分厚いコード・ワークには制約を受けるため、ハンターのプレイは、シンプルでありながら、間とタイミングを生かし、音のない空間にリスナーの想像の余地を残し、またスペースを埋めるグルーヴが、間を際だたせる役割を負っている。ジャズ・ヒストリーを振り返ると、セロニアス・モンク(p)やマイルス・ディヴィス(tp)の演奏スタイルに、類似点を見出すことが出来るであろうし、異なる音色を同時に操るのはローランド・カーク(sax)の影響があるとハンター自身が語っている。間とグルーヴに活路を見出すハンターのスタイルは、小節の中を音符で埋め尽くす方法論への、アンチ・テーゼであり、ヒップ・ホップのディアンジェロのグラミー受賞アルバム"ヴゥー・ドゥー"(ヴァージン・レコード)でも重要な役割を果たし、ジョン・スコフィールド(g)の"バンプ"(ヴァーヴ)にも、大きな影響を与えている。スコフィールドのツアー・バンドで、とんがったグルーヴをだしている、リズム・ギターのアヴィ・ボートニックを紹介したのは、ハンターである。
 セットのラスト・チューンは、サンバだ。混沌としたグルーヴの海を、ハンターのベースとギターが舵を取り、次々とゲスト・ミュージシャン達が飛び込んでいく。サウンドを支配しているのは、コードではなく、リズムである。このプリミティヴなスペースの中に、新しいエクスタシーが生み出される。
 チャーリー・ハンターは、現在ヴォーカルをフィチャーしたニューアルバムを、制作している。グルーヴ・オリエンテッドで、ボーダーレスな音楽は、まだまだ拡がり続ける。
 (2/15/01 於 No Moore)
 No Moore
 224 West Broadway
 New York, NY 10013
 (212) 925-2595


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