1999年 9月号 Jazz Life誌 New York Report
New York Jazz Witness ジャズを演奏する楽しさを共有
バリー・ハリス・ライヴ・アット・ジャズ・モービルジャズ・フェス月間だった6月が過ぎても、ジャズ・シーンもヒート・アップして、セントラル・パークの野外コンサート、ここ数年ブームのビッグ・バンドのスイング・ジャズで、ダンスをするリンカーン・センターの“ミッドサマー・ナイト・スゥイング”、そして今年で35周年を迎えたジャズ・モービルと、ヴァラエティ豊かなイベントが続く。本誌3月号で、ワークショップを紹介したバリー・ハリス(p)が、ジャズ・モービルにも登場し、観客も参加したパフォーマンスの模様をリポートしたい。
ジャズ・モービルは、ハーレムに於いてアフロ・アメリカン・カルチャーの啓蒙運動の一環として、始まったこともあり、フランク・フォスター(ts)ヒューストン・パーソン(ts)らベテランから、ボビー・ワトソン(as)ら中堅、若手と、ブラック色の濃いミュージシャンが出演する。演奏する場所もハーレムを中心としたアッパー・ウエスト・サイドからブロンクス、ブルックリンのいわゆるゲットーといわれる地域が多く、コミュニティのアフロ・アメリカンに、彼らが生み出した偉大なカルチャーの一つであるジャズに、身近に触れる機会を提供するのが目的である。自らの演奏活動と、ワークショップを通じてビ・バップの伝統を、守り続けているバリー・ハリスは、この文化啓蒙活動に適役であり、毎年レギュラー・メンバーとして出演している。
この日のライヴには、長年の共演者であるリロイ・ウィリアムス(ds)、ウォルター・ブッカー(b)を中心に、ワークショップの教え子でもあるロニー・ベンハー(g)、フロントにハリー・オースティン(ts)、カエリ・サワリ(tb)というメンバーで、145丁目のハドソン川沿いにある、リバーバンク・ステート・パークで行われた。7月に入って例年以上の猛暑に襲われたNYは、一部地域で2日近く電気供給がストップする、という異常事態が起きたが、夕方の河岸沿いのこの公園には、爽やかな風が吹き、夕焼けにけむるニュー・ジャージーをバックに、パフォーマンスは始まった。
スタンダード・チューンを、ホーン、ピアノ、ギター、ベース、ドラムスの順で、ソロをまわしてゆく。ハリスのスタイルは、バド・パウエル(p)直系で、一音一音を丁寧に紡ぎながら、リズミックに聴かせ、バッキングはシンプルでありながら、間を効果的に生かしグループ・アンサンブルをリードしている。
ミュージシャン達自身も楽しんでいるジャム・セッション的な演奏に、集まった観客もリラックスして、リズムに乗りながら聴いている。友人とのおしゃべりに興じたり、写真を撮るアマチュア・フォトグラファー、水彩でミュージシャンのポートレイトをスケッチする人など、様々に楽しんでいるようだ。観客のアフロ・アメリカンの年齢層は、リアル・タイムでジャズの古き良き時代を知っている世代が多く、若い世代ではアフロ・カルチャーに興味を持っている白人もしくはアジア人といったところが見受けられた。コミュニティ内の若い年齢層では、このようなイベントが自分たちの親の世代のためのものと認識されているのだろうかと、疑念をおぼえた。実際、ストレイト・アヘッド・スタイルのジャズは、アメリカにおいてさえ一般的な認識では、懐メロのような捉え方をされている。地方のCDショップへゆけば、ジャズ・セクションは小規模であるし、90年代のフュージョンともいえるスムース・ジャズは一般リスナーの支持を得てはいるが、それ以外は昔のエンタテインメント・ミュージック、もしくは一部のインテリ層が聴く難解な音楽と思われているのが、現実であろう。ハリスの、ジャズの伝統を継承しつつ、より身近にジャズ・ミュージックに触れ楽しむ機会を提供するスタンスは、現在のシーンの中で大きな評価に値すると思われる。
観客の中にいたハリスのヴォーカル・クラスの生徒達10人近くが、小さなジャズ・モービルのステージに上がり、季節はずれだが“オータム・イン・ニューヨーク”を歌い始めた。聴いて楽しむライヴから、参加して楽しむライヴへと変貌していったのである。続いてのアップ・テンポの曲では、杖をついた老女性ダンサーと、男性のダンサーが、ステージの前でタップ・ダンスを披露し、さらに盛り上がる。ハリスのワークショップは、プロフェッショナル・ミュージシャンの養成だけでなく、ジャズを演奏する楽しさを共有することも大きな目的のひとつであり、今回のステージでは、それを実践していたといえよう。最後に演奏されたラテン・チューンでは、コール&レスポンスによってステージと一体となって、観客もパフォーマンスに参加し、エンジョイした。
バリー・ハリスは、この秋石川県で催かれるビッグ・アップル”99・イン・野々市というイベントに、スライド・ハンプトン(tb)、マイルス・グリフィス(vo)、井上 智(g)、チャック・イスラエル(b)、リロイ・ウィリアムス(ds)というメンバーで参加し、その後スライド・ハンプトンをのぞいたメンバーで関西方面を、ツアーする。ハリスのバップ魂に触れてみて欲しい。(7/16/99 於 Riverbank State Park)
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