1999年  11月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

1999ニューヨークの夏。レジーナ・カーター、
チック・コリア&オリジンが飾った有終の美
 NYの夏の終わりのイベントとして、今年はミルト・ジャクソン(vb)、ジャッキー・マックリーン(as)らが参加した、チャーリー・パーカー・ジャズ・フェステヴァルと、パナソニック・ヴィレッジ・ジャズ・フェスティヴァルのクロージング・イベントである、レジーナ・カーター(vln)とチック・コリア(p)&オリジンによるコンサートが、8月の最終週の日曜月曜の2日続きで、行われた。前回に続いて、ヴィレッジ・ジャズフェステヴァルのイベント模様をリポートしたい。

 毎年、ヴィレッジ・エリアの中心であるワシントン・スクェアで、多くの観衆を集めて行われ、1週間のフェスティヴァルの打ち上げでもある、このフリー・コンサートは、今年は長年の念願であったワシントン・スクェア・ゲートの前に、ステージを組むことが出来た。
オープニング・アクトを務めたのは、レジーナ・カーター(vln)・グループ。97年のケニー・バロン(p)のツアー・グループで、アルバムでは寺井尚子(vln)が演奏したパートを担当して注目を集めた。その年の暮れ、リンカーン・センターで6日間のわたって行われたカサンドラ・ウィルソン(vo)の、マイルス・ディヴィス・トリビュート・コンサートで、フィーチャーされて評価を高め、アトランティック、ヴァーヴより3枚のアルバムをリリースし、スターダムにのった新鋭だ。 グループのサウンドの中核を、ロニー・ジョーダン(g)がにない、ウィーナー・“ヴァナ”・ギルッグ(p)、ダリル・ホール(b)、アルベスター・ガーネット(ds)が、サポートしている。
アップ・テンポのブルー・グラス調の曲で、コンサートは始まり、ジョーンズのバンジョーのようなカッティングをバックに、カーターは速いパッセージのソロを弾きこなして、大観衆を圧倒した。 続いてのストレイト・アヘッドの4ビート・ナンバーでも、ブルース・フィーリングあふれるソロを聴かせてくれた。パーカッションのマイア・カスアレスが加わり、ニュー・アルバム「リズム・オブ・マイ・ハート」(Verve POCJー1448)から、ラテン、バラード、レゲエとバラエティ豊かなリズムで、ある時はリリカル、またはパッショネイティヴな、アドリブが繰り広げられた。どのようなリズムでも、ジョーンズは巧みなバッキングで、カーターを際だたせる。ベースのホールは、全てウッド・ベースで柔軟なプレイを聴かせ、ギルッグ(p)は、リズミックなアプローチでカーターのソロのあとを盛り上げた。バラードから、ステージを中座していたカスアレスが、再びグループに加わり、キューバン・チューンの「セントラル・ハヴァナ」で、ステージとオーディエンスが一体となり、カーター・グループの華やかなパフォーマンスは終わった。

 熱気まださめやらぬ間に登場した、チック・コリア&オリジンは、5月に発表したアルバム「チェンジ」(Strech MVCL24014)の参加メンバー、アヴィシャイ・コーエン(b)、スティーヴ・ウィルソン(as、ss、fl)、スティーヴ・ディヴィス(tb)、ジェフ・バラード(ds)に、新メンバーのジム・バレン(ts、ss、fl)という、第2期オリジンともいうべき構成だ。ラテン・チューンで、オープニング・アクトを締めくくったカーターを受けて「ラ・フェスタ」で始まった。いきなりのコリア・スタンダード・チューンで、客席を興奮させる。コリアのパーカッシヴなバッキングの上で、3管の凝ったアレンジのテーマ・リフが演奏され、それぞれがソロをとる。途中3人が同時にインプロヴィゼーションをするという、アヴァンギャルドなアプローチが展開されたが、現代版アコースティック・リターン・トゥ・フォーエヴァーともいえるこのグループのサウンドを、顕著に表している演奏だ。ニュー・アルバムからのレパートリーが次々と演奏される。アルバムだと、曲の長さの関係上で、それぞれのアドリブ・スペースが制限されることがあるが、その呪縛から解放されたように、熱いアドリブの応酬が続く。往年のチャールス・ミンガス(b)のラージ・コンボを、彷彿させるような重厚なサウンドではあるが、テクニカルなソロが続いて、1曲が20分以上にわたると、やや食傷気味の感もあった。
 太陽が傾き、ステージとワシントン・スクェア・ゲートを、暖色に包み込む。コリアはピアノを離れ、舞台下手にセット・アップされたマリンバを叩き始める。「チェンジ」の1曲目「ウィグワム」だ。ドラムのバラードとの激しい掛け合いが繰り広げられた。アンコールを求める拍手が鳴りやまぬままに、メンバーがポジションにつくと、スペシャル・ゲストとしてウォレス・ルーニー(tp)が、加わりジャム・セッションのようにブルースを演奏して、NYの長いサマー・シーズンは終了した。 2000年の夏が、待ち遠しい。
(8/30 於ワシントン・スクェア・パーク)