2003年 1月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

ニューヨーク・ジャズ・シーンのメイン・キャラクター
ピーター・バーンスタイン @ ブルーノートNY

 NYの老舗ジャズ・クラブの基本スタイルは、火曜から日曜日、一日2セットを一グループでブッキングし、月曜日はビッグ・バンドが出演するのが伝統的だ。80年代初頭のオープンながら、今や老舗といっても遜色がないブルーノートNYは、月曜日はインディ・レーベルのショウ・ケースや、若手特集プログラムなど、他店とは一線を画したラインナップを、揃えている。ギター・サウンド特集で、堂々の中堅プレイヤーに成長した、ピーター・バーンスタインが登場した。
 
 ブルーノートNY店は、コンサート・ホールでしか見られないような大物ミュージシャンや、バースデイ・ギグなどのスペシャル企画を、多く手掛けている。先日(10月最終週)の、トゥーツ・シールマンス(hamonica)の80歳バースディ・ライヴでは、ビリー・ジョエル(vo,p)や、シークレット・ギグでスティーヴィー・ワンダー(vo,kb,harmonica)が出演し、驚かされた。ビッグ・ネームの出演は、ミュージック・チャージの高騰や、常連出演者の固定化によるマンネリズムをまねく傾向もあるのだが、この月曜日の時間枠を使って、リフレッシュをはかっているといえよう。ジャズ・クラブ、ブルーノートNY自身が運営するインディ・レーベル、"Half Note"や、NY、ヨーロッパのレーベルのショウ・ケースは、意外な組み合わせのグループが聴くことも出来るし、NYローカル・シーンで活躍する若手プレイヤーもよく出演している。ミュージック・チャージはテーブル$10.00、バー・カウンター$5.00と設定され、よりカジュアルに楽しめる。この時間枠で好評を博すると、火曜から日曜のレギュラー枠に昇格することもあり、出演者の演奏にも熱が入る。
 
 ピーター・バーンスタイン(g)が、その早熟な才能をシーンに知らしめたのは、90年のJVCジャズ・フェスティヴァルでの、ジム・ホール・インヴィテイショナル・コンサートでの、デビューであろう。ジム・ホール(g)を中心に、彼の影響を色濃く受けたパット・メセニー(g)、ジョン・スコフィールド(g)、ジョン・アバクロンビー(g)らと並んで、まだ20代前半の若さで、ホールの衣鉢を継ぐ新世代のギタリストとして、フィーチャーされた。以降、ルー・ドナルドソン(as)、ジミー・コブ(ds)ら、大ベテランのグループに起用されて腕を磨き、ダイアナ・クラール(vo,p)とともに大舞台を経験し、ジョシュア・レッドマン(ts)、ブラッド・メルドー(p)ら、同世代の若手スターのサイドを務めた。ラリー・ゴールディングス(org)、サム・ヤエル(org)、ビル・スチュアート(ds)らとは、盟友関係にあり、それぞれのリーダー・バンドをサポートして互いに研鑽を積み、90年代を駆け抜けてきた。ロードに出ているとき以外は、かならずNYのどこかのクラブ、レコーディング・セッションで演奏が聴ける、ファースト・コール・ギタリストに成長した。
 この日の演奏メンバーは、ピーター・ザック(p)、ジョン・ウェーバー(b)、チャールス・リジェイロ(ds)で、ヴィレッジの“スモールス”や、アップタウンの“オーギース(現在スモーク)”におけるセッション仲間の、若手実力派の人選であった。セット・メニューは、オリジナル曲から、スタンダード、タッド・ダメロン・チューンなど、通好みのカヴァーで構成された。ピーター・バーンスタインのスタイルは、ジャズ・ギターの歴史のエッセンスが凝縮されている。チャーリー・クリスチャン(g)のような、シンプル&メロディアスなフレージング、ウェス・モンゴメリー(g)ばりのオクターブ奏法、ジム・ホール(g)の、間が効果的なリズミック・アプローチ、パット・メセニー(g)、ジョン・スコフィールド(g)らのアウト・スケール感覚が、バーンスタインのヴォイスの中に違和感なく統合され、強い個性を形成している。この引き出しの多さと、懐の深さが、バーンスタインがベテランから、若手のグループまで、サイド・メンとして引く手あまたな理由であろう。この10年の幅広い活躍が、まだ30代半ばの彼の演奏に、リラックスした余裕と、早くもある種の風格さえも、もたらした。ピアノのピーター・ザックとのコンビーネーションも絶妙で、競合、協調、融合を自由自在に使い分ける。ウェーバーと、リジェイロもフロントの2人を、ぴたりとフォローし、またある時は、音の対位軸を創り出し、アンサンブルを分厚いものにしている。セッション・バンドにもかかわらず、パーマネント・グループのようなサウンドをクリエイトできるのは、お互いの手の内を知り尽くしている強みであろう。アメリカでは、"Jazz is Dead"と言われて久しく、ストレート・アヘッド・ジャズは、伝統芸能のような捉えられ方をされることもあるが、ここNYでは、若手による活発なローカル・シーンが、しっかりと現在進行している。(10/28/2002 於Blue Note NY)

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