2004年 02月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

聖なる楽器(ペダルー・スティール・ギター)がシャウトする
ロバート・ランドルフ&ザ・ファミリー・バンド

 90年代終わりから全米を席巻した、ジャム・バンドといわれるムーヴメントは、大学生の世代を中心に、インターネットによる口コミや、ライヴ音源の交換で盛り上がったが、ロック、フォーク、ファンク、ブルース、カントリー、ジャズと、あらゆるジャンルを内包し、玉石混淆の感もあった。それから3年、淘汰がすすみ生き残ったグループは、さらに大きな支持を得ることとなる。巨大クラブ、ローズランドに登場した、ペダル・スティール・ギターのロバート・ランドルフ&ザ・ファミリー・バンドをリポートしよう。
 
 座ったスタイルで、ボトル・ネックと、鉄の爪で弾くペダル・スティール・ギターとは、もともとハワイアン・ミュージックで使われる楽器であり、カントリー・ミュージックでも幅広く使われている。1915年にアメリカ本土に紹介され、微妙な音程のコントロールができ、肉声に近いニュアンスを持つことから、アフリカ・ルーツの音楽を再現するのにも適しており、オルガンと並んでアフリカン・アメリカンの教会の伴奏楽器として、ポピュラーだ。セイクリッド・スティール(聖なる楽器)といわれる、この楽器を使う宗派はハウス・オブ・ゴッド教会の、キース・ドミニオンと、ジュエル・ドミニオンで、アメリカ南部、中西部を中心に拡がった。ランドルフの両親も、ニュージャージー州ニューアーク近郊の街アーヴィントンの、アフリカン・コミュニティにあるハウス・オブ・ゴッド教会の聖職者で、現在26歳のロバート・ランドルフは、ペダル・スティール・ギターをフィーチャーしたゴスペル・ミュージックとともに、成長した。1999年にリリースされたコンピレーション盤「セイクリッド・スティール ー ライヴ」(Arhoolie)で注目され、いとこの、ダニエル・モーガン(el-b,vo)、マーカス・ランドルフ(ds)と結成した、ファミリー・バンドで、南部のブルース・バンド、ノース・ミシシッピ・オールスターズの前座を務めたところから、ジョン・メデスキ(kb,org)の目にとまり、彼らとともに、ルーツ・ミュージック・ユニット、”ザ・ワード”を結成、2001年のアルバムリリース、ツアーを行った。ファミリー・バンドでも、NYのクラブから、全米のライヴ・サーキットをこなし、その圧倒的なパフォーマンスで、評価を不動のものとし、2002年ワーナー・ミュージックより、「ライヴ・アット・ザ・ウェットランズ」でメジャー・デビューと、スターダムを駆け上がってきた。
 2002年のジャム・バンドの祭典、”ジャミーズ”では、この日と同じ会場ローズランドで、ロバート・ランドルフ&ザ・ファミリー・バンドも参加し、グランプリを受賞した。それから一年、ついにこの最大7,000人を収容し、かつてはビッグバンドが入ったダンスホールでもあった、大型ボールルーム・クラブでの、メイン・アクトを張るまでに成長した。9月にリリースしたメジャー第二弾のスタジオ録音アルバム「アンクラシファイド」を引っさげての今回のツアー。全米ネットのTVショウにも出演し、人気、実力ともに、いまノリにノッている。
 ディープなグルーヴを生むダニエル・モーガン(el-b,vo)、マーカス・ランドルフ(ds)のコンビネーションに、このツアーから、ジョン・ギンティ(org.)に替わって、ジェイソン・クロスビー(org.)が加わった。ペダル・スティール・ギターという、コントロールの難しい楽器を、完璧なテクニックで、ワイルドに歌わせるロバート・ランドルフ。2000年頃にはじめて、その演奏を聴いたときに、ジミ・ヘンドリックスが、スティール・ギターを弾いているような印象を受けた。通常のギターよりも、ロング・トーンが可能なので、ソウルフルにシャウトするニュアンスを、ソロにもたらす。アイドルは、スティーヴィー・レイ・ヴォーン(g,vo)、ジミ・ヘンドリックス(g,vo)、アル・グリーン(vo)、アニタ・べーカー(vo)と語るランドルフだが、シンガーからの影響はヴォーカル・スタイルだけでなく、スムースなギター・メロディにも見いだせる。初期のファミリー・バンドは、インストゥルメンタル・グループの印象が強かったが、ヴォーカル・チューンが多くなったニュー・アルバムと同じく、ざらついたテクスチャーが味わい深いロバートのヴォーカルと、極太のベース・ラインでボトムを支えながら、美しい高音域のファルセット・ヴォイスを聴かせるモーガンのコントラストで、グループの新たな局面をみせてくれた。ヘンドリックスの「パープル・ヘイズ」、マイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」、レッド・ツエッペリンの「グッド・タイムス、バッド・タイムス」のカバーも、様々な音楽ルーツを示している。ゲスト・シンガーが登場したり、オーディエンスをステージにあげてのダンス・タイムと、盛りだくさんの2時間は、あっという間に過ぎ去った。
 先日発表になった、来年2月に授与式が行われるグラミー賞に、アルバム「アンクラシファイド」が、ベスト・ロック・ゴスペル・アルバムに、オリジナル曲「スクィーズ」が、ベスト・ロック・インストゥルメンタル・パフォーマンスにノミネートされた。さらなるビッグ・ステージに向かって、ロバート・ランドルフ&ザ・ファミリー・バンドは走り続ける。(11/22/2003 於 Roseland Ballroom, NYC)
 
 追記
 ロバート・ランドルフ&ザ・ファミリー・バンドは、2004年のグラミー賞のステージでもジョージ・クリントンらともにフィーチャーされ、着実にスターダムを駆け上がっている。
 
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