2004年 03月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness Special

今年はニューヨークで開催されたIAJEから
ハイライト・イヴェントをスペシャル・リポート

 今年も年が明けると早々に、IAJE(International Association for Jazz Education, 国際ジャズ教育者協会)の年次総会が、開催された。31回目の今回は、3年ぶりにNYに戻り、8,000人以上の、教育者、ミュージシャン、学生、音楽産業関係者が、35カ国から集まり1/21から24まで、大盛況であった。この4日間のハイライト・イヴェントを紹介したい。
 
 毎年恒例のIAJE Annual Conferenceは、マンハッタンの中心、ミッドタウンに位置するヒルトン・ホテルと、シェラトン・ホテルの大小ホールを借り切って、4日間で300近いライヴ・パフォーマンス、クリニック、パネル・ディスカッション、研究発表、シンポジウムが同時進行し、200に及ぶ大学、楽器メーカー、レコード会社、出版社、プロダクションの展示ブースが出店される。ジャズ・コミュニティのメンバーが、ジャズというアメリカが生み出した素晴らしい音楽をより発展させて、次の世代へ継承する目的で集結したイヴェントであり、メンバー登録をすれば誰でも参加できる。
 今年は、NEA(National Endowment for the Arts, 国立芸術基金)が、長年の功績をたたえて授与するジャズ・マスターズ賞が、ジム・ホール(g)、チコ・ハミルトン(ds)、ハービー・ハンコック(p,kb)、ナンシー・ウィルソン(vo)、評論家のナット・ヘントフ、昨年亡くなったルーサー・ヘンダーソン(p,arr)に授与された。それに先立ち、歴代の受賞者の中から23人が集まり、まさにザ・マスター・オブ・ジャズ・マスターズが、一堂に会した貴重なフォト・セッションが行われた。写真の最後列から左から右にジョージ・ラッセル(p,arr)、デイヴ・ブルーベック(p)、後列から2列めに、デヴィッド・ベイカー(tb)、ナット・ヘントフ(評論家)、ビリー・テイラー(p)、パーシー・ヒース(b)、3列め、チコ・ハミルトン(ds)、ジム・ホール(g)、ジェイムス・ムーディー(ts)、4列めジャッキー・マックリーン(as)、ジェラルド・ウィルソン(tp)、ジミー・ヒース(ts)、5列めロン・カーター(b)、アニタ・オデイ(vo)、6列めランディ・ウェストン(p)、ホレス・シルヴァー(p)、最前列左からベニー・ゴルソン(ts)、ハンク・ジョーンズ(p)、フランク・フォスター(ts、着席)、セシル・テイラー(p)、ロイ・ヘインズ(ds)、クラーク・テリー(tp、着席)、ルイ・ベルソン(ds)、ダナ・ジオイア(NEA代表)となっており、1958年にフォトグラファー/アート・ディレクターのアート・ケーンが企画、撮影した当時のジャズ・ジャイアンツを、ワン・フレームに収めた"A Great Day in Harlem"を凝縮した、2004年ヴァージョンが撮影された。また、夜のメイン・ステージでは、今年の受賞者を紹介するドキュメンタリー・ヴィデオの上映があり、マスター達が演奏やスピーチで、新しいジャズ・マスター達を祝福した。
 IAJEの醍醐味の一つに、多くのビッグ・バンドを楽しめることがある。商業的に困難が伴うビッグ・バンドのライヴは、NYでもほぼ公開リハーサルのような、クラブのレギュラー・ギグ以外では、なかなか聴く機会が少ないが、IAJEの会期中は、学生からプロフェッショナルまで、多くのバンドを聴くことが出来る。ボストンの音大、ニュー・イングランド・コンサーヴァトリーのラージ・アンサンブルは、リディアン・クロマティック・コンセプトの提唱者ジョージ・ラッセルのアレンジを演奏し、最後の曲には、ラッセル自らがステージに登場し、教え子達を指揮した。滅多に公式の場に姿を現さないこの伝説の理論家の突然の出演に、客席にはどよめきが走り、ステージではラッセル・マジックで、学生グループとは思えない美しいアンサンブルが、奏でられた。
 2日目の夜には、、マリア・シュナイダー・オーケストラが登場した。シュナイダーは10年前に、IAJEから将来有望な若手ミュージシャンに贈られる、ギル・エヴァンス奨励賞を受賞している。4月のレコーディングに向けて、グループのアンサンブルは、タイトに、色彩感あざやかにまとまり、名実ともに全米No.1のジャズ・オーケストラ到達したことを印象づけた。
 最終日には、ボブ・ブルックマイヤー(tb)が、ニュー・アート・オーケストラを率いて登場するレアなコンサートもあった。スイング・ビッグバンドから、凝ったハーモニーを聴かせるビッグバンドへの架け橋のようなサウンドは、マリア・シュナイダーが、大学院で師事したブルックマイヤーから受けた影響の大きさをかいま見た。
 ギル・エヴァンス・オーケストラと同じルーツを持つジョージ・ラッセル、サド・ジョーンズ=メル・ルイス・オーケストラの系譜を現在に伝えるヴァンガード・オーケストラ(最終日に出演)、ボブ・ブルックマイヤー、マリア・シュナイダーと、モダン・ビッグバンド列伝を3日間で堪能できる貴重な経験であった。
 
 コンボ編成の演奏でも、迫力のステージが展開された。セカンド・アルバムのレコーディングも終えた上原ひろみ(p)は、若手グループながら圧倒的な存在感を放っていた。そして3日目の深夜には、現代サックス・シーンの三巨頭、マイケル・ブレッカー、デイヴ・リーブマン、ジョー・ロヴァーノが、一つのステージをシェアする、サックス・サミットがあった。デイヴ・リーブマン主導のこのプロジェクトの、コルトレーン・トリビュートを複数のサックス・プレイヤーで対比するというアイディアの原型は、97年の、ジョシュア・レッドマン、マイケル・ブレッカー、リーブマンの東京での"ライヴ・バイ・ザ・シー"にあり、98年にイスラエルの紅海ジャズ・フェスティヴァルで、ブレッカー、ロヴァーノ、リーブマンの3人で演奏したときに、リーブマンは確信に至ったという。セシル・マクビー(b)、ビリー・ハート(ds)のヘヴィー級のコンビネーションに、ハーモニーを包み込むように支配するフィル・マコーウィッツ(p)のリズム・セクションを得て、昨年10月に13カ所のヨーロッパ・ツアーを行い、レギュラー・グループとしてのサウンドが、タイトに完成した。
 1曲目は、コルトレーン・チェンジを多用した、50年代後期を思わせるハード・バップ調のオリジナル曲。リーブマンだけがソプラノ・サックスを演奏する。メカニカルなブレッカー、スピリチュアルなロヴァーノ、アブストラクトなリーブマンと、三者三様のコルトレーン・トリビュートだが、熱いソウルは一つにまとまる。3人のバンブー・フルートのアンサンブルの長いエスニック調イントロが始まる。導かれて顕れたメロディーは、"インディア"だ。マクビー、ハートの野太いボトムで、3人のモーダルに炸裂するサックス・ソロが、カタパルトのような推進力を得て飛んでゆく。マコーウィッツのクールなタッチのピアノ・ソロは、サウンドにヴァリエーションをもたらしている。つづいては、フリー・ブローイング・セッションだ、ソリストのバックでは、コルトレーンの問題作「アセンション」を思わせるサウンド・ケオスが生成され、集団即興演奏へとなだれ込んだ。コルトレーン・ミュージックの進化の過程を、そのまま再現したかのような、1時間ほどのパフォーマンスであった。1月の2週には、このメンバーでレコーディングを終了、「インディア」というタイトルで、秋にテラークからリリースの予定である。アルバムも大いに期待される。(1/23/2004 於 Imperial Hall, Sheraton Hotel NYC)

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