2003年 3月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

クレオール文化から生まれたGWO-KAのグルーヴを
大胆に導入した、デイヴィッド・マレイの最新ステージ

 年頭を飾る、ジャズ・シーンのビッグ・イベント、IAJE(国際ジャズ教育者会議)は、30回目の今年、初めてアメリカ以外の開催地カナダのトロントで行われた。非営利組織のコンベンションなので、通常ではコマーシャル的には難しいライヴも、多く聴ける。モントリオールのインディ・レーベル"Justin Time"のショウ・ケース、デヴィッド・マレイ(ts,b-cl)& The GWO-KA Mastersを、トロントからリポートしたい。
 
 アメリカの批評家投票では、ジョー・ロヴァーノ(ts)と並んで、常にテナー・サックス部門のランキング上位に名を連ねているデヴィッド・マレイは、96年からJustin Timeレーベルに、ワールド・サキソフォン・クァルテット名義と併せて13枚のアルバムを、録音している。98年にレコーディングした、NYのジャズ・ミュージシャンと、カリビアン・パーカション・プレイヤーのコラボレーション・アルバム「CREOLE(クレオール)」で、グアドループ島出身のパーカション・プレイヤー/ヴォーカリスト、クロード・キアヴーと出会ったマレイは、GWO-KA(グオ・カ)といわれる伝統的なグルーヴ・ミュージックに傾倒し、新たなメンバーを迎えて昨年ニュー・アルバム"YONN-DE"をリリースした。グアドループ島は、島の数だけリズムがあるといわれるカリブ諸島の中で、プエルトリコの南東に位置する小島で、フランスの海外県の一つである。フランス文化の影響下で、アフリカ人との混血が独自のクレオール文化を形成し、ジャズ・ミュージックの源泉となったアメリカ南部のニュー・オリンズと同様に、グアドループ島も、フランス、アフリカ、南米の様々な人種、文化、ビートが融合し、プリミティヴとソフィスティケイトが混在する、ヴォーカルとパーカッションのアンサブル、グオ・カを生み出した。新作"Yonn-DE"には、クロード・キアヴーと並ぶグオ・カ・マスター、シンガーのガイ・コンケットが参加しており、この日のコンサートでも、ヨーロッパとアフリカの言語の混血言語、クレオール語のソウルフルなヴォーカルを聴かせてくれた。
 アルバムでは、2人のパーカションと、リード・ヴォーカルがグアドループ出身で、テナー、トランペット、トロンボーンの3管ホーン・プレイヤーと2リズムが、アメリカ人の編成だが、この日のコンサートは、コンケットとキアヴーのグオ・カ・マスターに、パーカッションのフィリップ・マカイアが加わり、ベースのジャリーブ・サヒードと、ドラムのハミッド・ドレイクがアメリカ出身、ホーンはマレイのみでフロントがシンプルになり、パーカション・アンサンブルに比重が大きくなっていた。コンケットのヴォーカルと、ヴォイスと同じぐらい肉体に直結した、マレイのマッチョなテナーが、サウンドをリードする。キアヴーとマカイアの、コール・アンド・レスポンスが絶妙な、グオ・カ・ドラムのタテノリのグルーヴ・アンサンブルに、サヒード、ドレイクのジャジーなアプローチがブレンドされ、壮大なポリリズムを創り出す。マレイは、メロディアスに、ときにパーカッシヴにリズムを煽る。キアヴーとマケイアは、コンケットのバックコーラスも歌い、マレイのバス・バスクラリネットが、低音部を担当するヴォーカル・アンサンブル的なアプローチも、土臭さと洗練さが混ざり合い、不思議な音空間を構築している。最晩年のジョン・コルトレーン(ts,ss)も、アフリカにルーツを持つパーカッション・アンサンブルと共演し、「クル・セ・ママ」や「オム」、死の直前のライヴ盤「オラツンジ・コンサート」などを遺している。コンセプトに、今回のマレイのプロジェクトとの類似点は見いだせるが、悲愴感ただようコルトレーンと対照的に、マレイは人間賛歌のような、オプティミスティックな演奏を聴かせてくれた。クレオール文化の社会的評価の確立とともに、キャリアのピークにありながら肉体的破滅にむかっていたコルトレーンと、表現者としての、さらなる成熟へ邁進しているマレイの、精神的背景の違いが、サウンドの印象を、180度異なるものにしている。ジョン・コルトレーンの衣鉢を、デヴィッド・マレイのやり方で受け継ぎ、発展させたサウンドの到達点の、さらなる高みを見てみたい。(1/9/2003 於 John Bassett Theatre, Metro Toronto Convention Centre)
 
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