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2004年 07月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

ビル・フリゼールが、ブライアン・ブレイド&
サム・ヤエルを擁するトリオでスペシャル・ギグ

 NYの有名ジャズ・クラブでは、4月の最終週から5月の第一週に充実したライン・ナップをブッキングすることが多い。『ヴァンガード』では、ジム・ホール(g)・トリオのライヴ・レコーディングが行われ、『ブルー・ノート』には、ホレス・シルヴァー(p)が久々にNYで演奏した。ストレート・アヘッドから、アヴァンギャルド、コンテンポラリーまで幅広いプログラムの『ジャズ・スタンダード』には、異能のギタリスト、ビル・フリゼール(g)が、ブライアン・ブレイド(ds)とサム・ヤエル(org)を率いたスーパー・トリオで登場した。
 
 コンテンポラリー・ギタリストの精神的支柱である巨匠ジム・ホールにして「その予測不可能なスリリングなプレイは、セロニアス・モンク(p)を思わせる。」と言わしめたビル・フリゼールは、パット・メセニー、ジョン・スコフィールドらとともに、ギター・ミュージックと、ジャズの新たな地平線を探求し続けているプレイヤーだ。90年代からリリースしている作品群をみても、ジャズにとどまらず、ロック、ポップス、カントリー&ウェスタン、ブルーグラス、ワールド・ミュージックと、創造力のおもむくままに軽々とカテゴリーのボーダーラインを越え、独自のギター・スタイルで巨大な音楽宇宙を構築しているトリック・スターである。
 ジョシュア・レッドマン(ts,ss)・エラスティック・バンドのメンバーとしても、評価が高いブライアン・ブレイド(ds)とサム・ヤエル(org,kb)の2人だが、フリゼールが90年代後半に、ジョシュア・レッドマン・グループ(エラスティックとは別)で演奏しているブレイドをテレビで見たことから、このトリオは始まった。ボブ・ディラン(vo,g)、エミー・ルー・ハリス(vo,g)、ケニー・ギャレット(as)らと共演するブレイドを聴き関心を深め、98年にリリースしたエルビス・コステロ(vo,g)/バート・バカラック曲集『ザ・スウィーティスト・パンチ』にブレイドを迎え、共演は期待をはるかに上回る感触をえた。それから機会あるごとに演奏を共にしてきたフリゼールとブレイドだが、お互い多忙のため、レギュラー・グループ結成には至らなかった。
 数年後、ブルーノートNYのジャム・セッション的なスペシャル・ギグに、ブレイドがフリゼールを招待し、ジョー・ロヴァーノ(ts)、ジョン・パティトゥッチ(b)らとステージをシェアしたのがサム・ヤエルである。ここにフリゼール、ブレイド、ヤエルの3人が揃った。今年このトリオは、シアトル、サンタ・クルーズで4日ずつ、オークランド、オースティン、ニューヨーク、ボストンでそれぞれ2日ずつのツアーを行い、本格的にユニットとしてスタートした。
 
 週末2日限定の、NYジャズ・シーンでも注目の3人のスペシャル・ギグは、すべてのセットがソールド・アウト、ジャズ・スタンダードには連日長蛇の列がのびた。ライヴ・スペースは地下、1階はレストラン業界の大立者ダニー・メイヤーのプロデュースする、スペア・リブが名物のアメリカン・フード・レストラン、ブルー・スモークで、同じ厨房からサーヴされるジャズ・スタンダードは、食事も楽しめるトレンディ・スポットとして人気がある。
 サム・ヤエルと、ブライアン・ブレイドのコンビネーションは、フロントにピーター・バーンスタイン(g)を擁したサム・ヤエル・トリオでは、トラディショナルなオルガン・トリオの延長線上にあり、エラスティック・バンドでは、よりグルーヴ・コンシャスなサウンドをクリエイトしてきた。ビル・フリゼールがフロントにはいるこのユニットは、ブレイドが参加している、ウェイン・ショーター(ts,ss)・クァルテットや、70年代のマイルス・グループにも共通するような、オープン・マインドでフリーキーなサウンドが展開された。テーマは、モチーフとして提示され、そこを出発点としてサウンドが拡散していく。独特のコード・ワークと、サウンド・エフェクトで、空間を支配するフリゼールのプレイだが、このユニットでは、シンプルなシングル・トーンのホーン・ライクなプレイをも駆使し、ブレイドのドラムスとの音楽的対話を核として、ヤエルのオルガンのファット&ウォーム・サウンドで包み込むのが、アンサンブルの基本構造である。
 フリゼールが愛してやまないザ・ベンチャーズの引用や、ディストーション、フレーズ・サンプラーを使って、スパイスをきかせている。ブレイドは、柔軟かつ繊細なドラミングで、4ビートからファンク・ビートまで変幻自在に叩きだし、フリゼールをインスパイアし、ヤエルは具体的なベース・ラインやコードの提示よりも、抽象的なサウンドをちりばめイマジネーションを喚起した。同じ週にヴァンガードに出演していたスコット・コーリー(b)、ルイス・ナッシュ(ds)のジム・ホール(g)・トリオも、驚くほどの繊細さで、まるでグラスいっぱいの水に、一滴のインクを垂らしてその反応を楽しむといった趣があったが、フリゼール・トリオも方法論こそ異なるが、繊細な音楽的リアクションを繰り返して発展していくというコンセプトには、類似点を見いだせる。このトリオが次にどこに向かうのか、そのパフォーマンス同様、予測不可能である。(5/1/2004 於Jazz Standard, NYC)
 
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