2003年 2月号 Jazz Life誌 New York Report
New
York Jazz Witness
コルトレーンのスピリットを現代に継承する
ソニー・フォーチュン&ラシッド・アリ・デュオ
昨年9月、ウェスト・ヴィレッジに新たなジャズ・クラブがオープンした。“スウィート・リズム”は、ジャズ、ワールド・ミュージックを中心として、プログラムがだんだん充実しつつある。11月中は、毎週火曜日の夜、ソニー・フォーチュン(as)&ラシッド・アリ(ds)・デュオという、硬派なラインナップをブッキングし、盛況だった。ヴィレッジ・ジャズ・シーンのニュー・カマーと、白熱のライヴをお伝えしよう。
2001年4月に、ジャズ・クラブ“スウィート・ベイジル”は、惜しまれつつ閉店した。70年代に自然食レストランとしてオープンした店は、オーナー夫妻の趣味を反映して、次第にジャズ・クラブへとシフトしていき、晩年のアート・ブレーキー(ds)&ジャズ・メッセンジャーズや、ギル・エヴァンス(arr、kb)・マンディ・ナイト・オーケストラの舞台として、数々のライヴ・アルバムに、その名を残している。ハ約一年半のブランクで、同じ場所にオープンしたのが、“スウィート・リズム”だ。9月のオープン以来、様々なラインナップを模索していたが、開店2ヶ月でブッキング方針が固まってきた。ベイジル時代は、火曜日から日曜日まで毎日2セットずつ同じアーティストが出演するという伝統的なスタイルであった。今のNYでは、老舗のヴィレッジ・ヴァンガード、ブルー・ノート、新興ではイリディアムぐらいしか、このプログラム・スタイルを組めなくなった。集客力を、計算できるアーティストが限られていることが、6日間同一プログラムを難しくしているのだろう。スウィート・リズムでは、毎週月曜日に、キューバン・ミュージックの“Quinbombo“をブッキングし、スペシャル・ゲストとして、ケニー・ギャレット(as)、ケニー・バロン(p)らジャズ畑のアーティストを迎えている。かつての“ヴィレッジ・ゲイト”の名物イヴェント、“サルサ・ミーツ・ジャズ”を思わせるプログラムだ。火曜から日曜は、2、3日単位で、ワン・グループ、月によっては一定の曜日に毎週レギュラー・グループが出演という、フレキシブルなスタイルをとっている。90年代のベイジルのブッキング・マネージャーが、引き続き担当しているので、ブラック系のストレート・アヘッドから、アヴァンギャルド、ワールド・ミュージックが中心となってきた。
ソニー・フォーチュン(as)と、ラシッド・アリ(ds)。1967年に、志半ばで倒れたジョン・コルトレーン(ts,ss)のスピリットを、継承するプレイヤーである。アリは、最後のコルトレーン・グループのメンバーで、70年代はロフト・セッションを主催し、デヴィッド・マレイ(ts)ら、多くのプレイヤーを世に送り出した、NY・アンダーグラウンド・ジャズ・シーンのゴッド・ファザーである。フォーチュンは、往時のコルトレーン・グループの迫力を今に伝える、エルヴィン・ジョーンズ(ds)&ジャズ・マシーンのフロントを長年つとめている。99年に2人は、フォーチュンのリーダー作、“コルトレーンの魂”(Shanachie/King
Records)で共演している。ドラムスとの、せめぎ合いのようなデュオは、コルトレーンが好んで演奏したフォーマットだ。クアルテット時代も、途中でピアノ、ベースをオフにして、エルヴィン・ジョーンズ(ds)と、荒々しい対決を聴かせている。アリも、晩年のコルトレーンと“インターステラー・スペース”を録音した。この日の、パフォーマンスはスタンダード・チューンの「Softly
as a morning sunrise」で、始まった。アリの激しいポリリズムの上で、フォーチュンは、テーマを解体しマイナー・キーと、ブリッジのメジャー・キーに簡略化し、アルト・サックスが、張り裂けんばかりのハード・ブロウイングを聴かせる。カタパルトから射出されたように、頭から全力発進だ。音符を細分化した、シーツ・オブ・サウンドが、ドラミングと相乗効果で、演奏のテンションを上げる。20分以上が過ぎ、2人の額から汗がしたたるが、音圧は一層強くなったようだ。アリの怒濤のソロに突入し、ソロ交換によってさらにパワー・アップし、爆走サックス・ソロで、激しい炎を吹き上げ、30分にも及ぶ、一曲目が終了した。フォーチュンのオリジナル“デューク&キャノンボール”が2曲目だ。メロウなバラード・メロディを、アリのスウィング・ビートが包み込む。リズムのうねりで、メロディを感じさせる円熟の伴奏だ。フォーチュンを煽る前曲とは異なるアプローチで、デュオとは思えない大きな音像を描いた。ドラム・ソロのあとには、コルトレーンの「I
want to talk about you」を思わせる、ロング・カデンツアが挿入され、エンディングへと至る。2曲で1時間を超える、エモーションとパッションが一体となった熱いプレイであった。クラブは、まだウェイターのサーヴィス・クオリティなどに問題はあるが、それをカヴァーする音楽の充実である。一日も早く、店のシステムが軌道に乗せてほしい。(11/23/2002 於 Sweet
Rhythm,NYC)
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