2002年 3月号 Jazz Life誌 New York Report
New
York Jazz Witness
ジャンル、インスツルメンツを縦断する
オル・ダラのイマジネイティヴなステージ
カサンドラ・ウィルソン(vo)に、「彼こそは、本当のミュージシャンズ・ミュージシャン」と言わしめる鬼才、オル・ダラ(vo,g,cor,etc)。ジャンル、インスツルメンツを、その創造力の赴くままに縦横無尽に駆け抜けるその音楽性は、多様化する現代のミュージック・シーンを映す鏡とも言えよう。B.B.King
Blues Club & Grillでの、久々のNYギグをお届けしよう。
NYのCDショップで、オル・ダラを探すと、ジャズ・コーナーよりも、ソウル&ポップス・コーナーで大きくディスプレイされている。このアーティストをカテゴライズすることの、ナンセンスさを、如実に物語っている。41年にミシシッピ州で、生まれたオル・ダラはディープ・サウスの、ブラック・コミュニティの中で音楽とふれあいながら成長し、18歳で4年間の海軍軍楽隊の軍務につき、カリビアン諸島、アフリカ、ヨーロッパと様々な土地を訪れ、その文化を自己の音楽に取り入れていった。60年代後半から、NYを拠点に、音楽活動を開始。ジャズ・メッセンジャーズで頭角をあらわし、デヴィッド・マレイ(ts)、ヘンリー・スレッギル(as)、オリヴァー・レイク(as)らと行動を共にし、ロフト・ジャズ・セッション・シーンで活躍していたために、ジャズ・ミュージシャンの範疇で捉えられることが多かったが、本人は、もっとも意識していないことである。オル・ダラの音楽は、ディープ・サウスのブルース、カリビアン、アフリカのリズム、ジャズのフリーダム・スピリットと、インプロヴィゼーションが、混然一体となって存在するキャパシティの大きな宇宙である。昨年夏の来日公演で、日本のコアなミュージック・ファンにも、その特異な音楽性は、知られるところとなった。筆者も、昨年3月のNYシンフォニー・スペースでのマイルス・デイヴィス・トリビュート・マラソン・コンサート(2001年5月号の本連載参照)で、マイルスの遺作"ドゥー・バップ"をカバーした、オル・ダラを聴いてから、注目していた。今回の舞台となったB.B.King
Blues Club & Grillは、ジャズ・クラブ・ブルー・ノートの姉妹店で、ジェイムス・ブラウン(vo)ら大御所から、マーカス・ミラー(b)までブラック・ミュージックを中心に、興味深いラインナップを組んでいる、42nd
Streetの再開発エリアにある注目のクラブである。
クワティ・クウォーティ(g,vo)、アロンゾ・ガードナー(b,vo)、ラリー・ジョンソン(ds)、セク・トンガ(per,vo)からなるレギュラー・メンバーを率いて、オル・ダラはステージに登場した。昨年リリースしたアルバム"ネイバーフッズ"(ワーナーミュージック・ジャパン)からの曲を中心に、演奏する。カリビアンや、アフリカン・ビートのタイトなリズムに、パーカッションのトンガが、多彩なカラーリングをしている。大きなグルーヴにのってオル・ダラは、味わい深いヴォーカル、オープン・コードのバッキングも絶妙なギター、リリカルなコルネット、ブルース・ハープ、エスニック・フレイヴァーを添えるアボリジナル・トランペットを、駆使してデープ・サウス・ブルースに根ざした、独自の音楽観を聴かせてくれる。それぞれの音色は異なっても、表現するヴォイスは共通で、オル・ダラの長いキャリアと幅広い音楽性をあらわし、不思議な統一感をもたらしている。それぞれの楽器に、素晴らしいパフォーマンスを可能にする、テクニックを持ちながら、まるで少年が様々な楽器を、気の向くままにいじりながら、音楽をエンジョイしているような純粋さが、オル・ダラ・サウンドを唯一無二のものにしているのであろう。ブラック・ミュージックでは、お約束のコール・アンド・レスポンスや、客席に下りてきて、オーディエンスとコミュニケーションをとるエンターテイメント性も、備えている。高度な音楽性を保ちながら、時にはルーズに、けっして緊張感を強いず、リラックスさせ、エキサイトメントもあるという音楽の本来の姿が、ナチュラルに存在していた。プレイヤーが、自由自在に純粋に楽しんで演奏している音楽を、リスナーが、カテゴリーや些細なことにこだわらず、ありのままに楽しむ。そこには深い音楽的背景と、アーティストの人生経験の背景がある。ややもすると、見失ってしまう当たり前のことを、再認識させてくれるライヴであり、オル・ダラが、真のミュージシャンズ・ミュージシャンであるだけでなく、リスナーズ・ミュージシャンたることを、雄弁に語っている。
(1/18 於B.B.King Blues Club & Grill)
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