2003年 6月号 Jazz Life誌 New York Report
New
York Jazz Witness
M-Baseのファウンダー、早すぎた改革者
スティーヴ・コールマンの"現在"
80年代半ば、ミュージック・シーンをRun
DMCや、パブリック・エネミーなどラッパー達が席巻していた頃、ジャズ・シーンでもブルックリンを拠点としたM-BASEという一派が現れ、グレッグ・オズビー(as)、ジェリ・アレン(p)、カサンドラ・ウィルソン(vo)ら、現在もっともクリエイティヴなアーティストたちがデビューを飾った、このムーブメントの総帥が、スティーヴ・コールマン(as)である。その現在をリポートしたい。
M-BASEとは、Macro-Basic Array of Structured Extemporarizationの略であり、構成された即興演奏の巨視的な基礎音列とでも翻訳されるが。サウンドをリズム・ストラクチュア、メロディ・ストラクチュア、ハーモニー・ストラクチュア、エモーショナル・ストラクチュアの4つの構造に分解して考え、リズム、メロディ、ハーモニー、エモーションの優先順位で、バランスをとって構成するという、作曲、インプロヴィぜーション理論である。80年代初頭からのラップ・ブームに端を発し、ジャズ・シーンにも誕生したダンサブルにリズム・コンシャスでありながら、ジャズ本来の美しいメロディ、スリリングなアドリブをもつ音楽である。大きな特徴は、ブラック・アメリカンのストリート言葉に直結したリズミカルなメロディを優先したところから編み出される複雑な変拍子にあり、ビートに身を任せていると、ある種のトランス状態に誘われるヒップなサウンドにある。開店したばかりの、ニッティング・ファクトリーを拠点に、前記3人のプレイヤーに加えロビン・ユーバンクス(tb)、ゲイリー・トーマス(ts)、グラハム・ヘインズ(tp)、ジャン・ポール・ブレリー(g)、デヴィッド・ギルモア(g)、テリ・リン・キャリントン(ds)、マーヴィン・スミッティ・スミス(ds)らも、この流れの中でホットな演奏を繰り広げ、精神的支柱は大ベテランのデイヴ・ホランド(b)だった。90年代は、ロイ・ハーグローヴ(tp)、ラヴィ・コルトレーン(ts)、マシュー・ギャリソン(el-b)、ジェイソン・モラン(p)、ステフォン・ハリス(vib)、ジーン・レイク(ds)らも参加し、優秀な若手ブラック・ミュージシャンの登竜門であり続け、コールマンはフィクサー的存在となった。インディ、メジャーとのレーベル契約で、コンスタントに野心作をリリースしているが、現在はフランス最大のジャズ・レーベルLabel
Bleuから、意欲的なフランスでのライヴ・アルバムをリリースしており、ヨーロッパでも、高い評価を確立している。
日本の古い時代劇マニアのコールマンが、宮本武蔵の五輪の書から、命名したグループ、ファイヴ・エレメンツは、20年近く続き老舗バンドの領域に達しつつあるが、有望な若手とベテランのコンビネーションが刺激的だ。このグループは、常に才能あるストック・ミュージシャンがおり、毎回メンバーが流動的で、NYではジャズ・ギャラリーや、トニック、ニッティング・ファクトリーをフランチャイズに演奏している。この日は、フロントに、ここ数年行動をともにしている、トランペットのジョナサン・フィンレイソン、ハーモニカに、チャーリー・ハンター(g)や、ジャッキー・テラソン(p)のグループでも活躍するグレゴアール・マレを擁し、コールマンと3人で有機的に絡まるアンサンブルを聴かせてくれる。いつの時代も、このグループはコールマンの複雑な変拍子を難なくこなす強力なリズム陣を誇っていた。進境著しいベースのアンソニー・ティッドと、デフニス・プリエト(ds)、サンディ・ペレス(per)のコンビネーションは、柔軟なグルーヴを生み出している。アップ・テンポの変拍子アコースティック・ファンク・チューンの「アーバン」から、ライヴは始まった。シャープな音色と、容貌までもがリー・モーガン(tp)を思わせるフィンレイソンの熱いアドリブと、コールマンの理知的なソロが対照的だ。2曲目からは、一気に最後までメドレー構成で、コールマンのディレクションで、ソロ・オーダーや、リズム・テクスチャーが変遷していく。実体は、フリー・ファンクだった70年代のマイルス・グループの遺伝子を受け継ぎ、同じルーツを持つMM&Wや、リズム・コンシャスなチャーリー・ハンター(g)にも見いだせる傾向であり、この数年で爆発的な人気を博したジャズ系ジャム・バンドのコンセプトは、コールマンが20年前に先取りしていたことに気づかされた。コールマンのウェッブサイトでは、音楽的アイディアは共有すべきものであるという理念から、廃盤になっている80年代の作品から最近作の一部、完全無料配布の最新作"Altenete
Dimension Series 1"がmp3で、ダウンロードできる。今なお過激に、尖鋭的に自らの音楽を追究する、スティーヴ・コールマンの動向は要チェックである。(4/22/2003
於 The Jazz Gallery, NYC)
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