2002年 7月号 Jazz Life誌 New York Report
New
York Jazz Witness
モンクレアー・ジャズ・フェスティヴァルで再現された
ジョン・コルトレーンの「アフリカ・ブラス」セッション
夏が近づき、ジャズ・フェスティヴァル・シーズンが始まる。NYのJVCジャズ・フェス、モントリオール・ジャズ・フェスなど、大企業がスポンサーにつき、大物アーティストが登場するフェスティヴァルが有名だが、小都市のローカルなジャズ・フェスも、独自の企画で楽しませてくれる。NYにシーズン到来を告げる、郊外のモンクレアー・ジャズ・フェスティヴァルに、足をのばしてみた。
ニュージャージー州モンクレアーは、マンハッタンの北西、車で30分ほどのベッド・タウンである。在住ミュージシャンも多く、レジー・ワークマン(b)、オリヴァー・レイク(as)らベテランから、中堅、若手が、この閑静な住宅街で創作活動に専念している。街の文化・芸術局と、地元企業のバックアップによって5年前から始まった、5月中旬の週末のジャズ・フェスティヴァルは、金曜日の夕方からのストリート・フェア、地元クラブでのライヴ、土曜日の正午から夜までの、企画コンサート・シリーズに、学生バンドから、在住のミュージシャンのグループまで参加する。
今年のフェスティヴァルのハイライトは、レジー・ワークマン(b)のオーガナイズによる、ジョン・コルトレーンの「アフリカ/ブラス」を、ゴスペル・コーラスをも含む大編成のビッグ・バンドを再現する最終日、最後のプログラムであった。
1961年に、鳴り物入りでインパルスに移籍した、ジョン・コルトレーン(ts,ss)の第一作が、「アフリカ/ブラス」である。クアルテットを中心として、メンバーに変動がある3日間のレコーディング・セッションは、2枚のアルバムで、全貌が明らかになっている。エリック・ドルフィー(as,etc)のブラス・アレンジは、広大なアフリカのサバンナを想起させ、吼えるコルトレーンのサックスを包み込む、スケールの大きな作品である。レジー・ワークマンは、オリジナル・セッションを支えた4人のベーシストの1人で、このコンサートには、オリジナル・ベーシストのジミー・ギャリソンの遺児、マシュー・ギャリソン(el-b)も参加し、ワークマンと共に、うねる低音部を構成した。
コンサートは、スタッフォード・ハンターと、アーロン・ジョンソンの、ホラ貝の対話から始まった。プリミティヴでスピリチュアルなフィーリングを醸したあと、「アフリカ/ブラス
Vol.2」に収録されている、「ソングス・オブ・アンダーグランド・レイルロード」が演奏された。マイナー・ペンタトニック・スケールが印象的な、モーダルでアップ・テンポのコルトレーンのオリジナル・チューンだ。アルバムでは、vol.1は、トランペット、トロンボーン、サックスを2人ずつに2ベースという、小編成ビッグ・バンド、vol.2が、フレンチ・ホルン、チューバを含むさらに分厚いサウンドとなっている。このコンサートでは、vol.2の編成を基本とし、チェロ、ハープ、地元のセイント・ポール・バプティスト教会の40人ほどのコーラスを加えている。ベテラン・プレイヤー、ビリー・ハーパー(ts)が、コルトレーンのロール・プレイをする。研ぎすまされたサウンドが、ホールを突きぬけた。アレンジ、指揮をとるのは、ハアート・ブレイキー(ds)晩年のメッセンジャーズでプレイしていたチャールス・トールヴァーだ。ドルフィーの芳香を残しつつ、モダンに洗練された大編成のアレンジが、ハーパーの音色と、絶妙なコントラストと、アンサンブルを描く。 演奏は佳境に達し、ワークマンのオリジナル曲「The
Martyr's Hym」では、ヴォーカルがフィーチャーされた。ディーン・ボウマン(vo)は、ジャズ・ヴォーカルというよりも、ソウルフルなポエトリー・リーディングというスタイルで、アフロ・アメリカン達の、故郷アフリカへの想いを詠う。コーラスとのコール&レスポンスとなり、ゴスペルへと変貌した。フィナーレは、「アフリカ」だ。重厚な、アフロ・リズムの上で、咆吼するハーパーのサックスに、ホーン、コーラスが一体となって、壮大な叙事詩を奏でる。末尾を飾った、レジー・ワークマンのベース・ソロは、オリジナル・レコーディングから40年以上にわたって、音楽でアフロ・アメリカンのプライドを語る、ストーリー・テラーのようだ。未来に向けても語り続けられることであろう。(5/11/2002 於Monclair
High School Auditorium)
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