1997年 8月号 Jazz Life誌 New York Report
New
York Jazz Witness
サマー・ジャズ・フェスティバルの季節がやってきた!
6月に入り気温が上昇し始めると、NYでは、いよいよジャズ・フェスティヴァル・シーズンの到来だ。口火を切るのは、6月16日から30日まで開かれるニッティング・ファクトリー主催のテキサコ・ニューヨーク・ジャズ・フェスティヴァル。そして6月20日から28日までのJVCジャズ・フェスティヴァルが続く。7月に入ると、多くのミュージシャンがヨーロッパや日本へのツアーへと出かけてしまうため静かになるが、8月16日から25日までのパナソニック・ヴィレッジ・ジャズ・フェスティヴァルで、ニューヨークの夏は終わる。
これら3つのジャズ・フェスティヴァルの中で、今年もっともパワーアップしたのはニッティング・ファクトリー主催のテキサコ・ニューヨーク・ジャズ・フェスティヴァルだろう。元々は、ニッティング・ファクトリーの単独主催で、6月に同クラブのみの会場で、いつもよりも強力なライン・ナップをブッキングするという小規模なフェスティヴァルだったのが、昨年ハイネケンをスポンサーにつけ、複数の会場で、様々なプログラムを同時進行させる大規模なフェスティヴァルへと、成長した。今年はアメリカを代表する大企業のひとつテキサコをスポンサーに付け、さらにグレード・アップし、ヴァラエティに富んだプログラムを組んでいる。
初日6月16日には、アート・アンサンブル・オブ・シカゴが登場。ニッティング・ファクトリーのフランチャイズ、トライベッカ地区のニューヨーク・アカデミー・オブ・アート・トライベッカ・ホールで催されたこのオープニング・イヴェントは、多くの聴衆を集め、成功を収めたといえよう。次いで、翌日のニッティング・ファクトリーに於けるビル・フリゼールのクァルテットとソロによる5時間に及ぶパフォーマンスもソールド・アウトという大盛況。19日の野外コンサートに登場した、ジョン・ゾーンのクァルテット"マサダ"も相変わらずの人気の高さを誇っていた。これらのニッティング・ファクトリーの常連バンドから、ヒース・ブラザース、ジャッキー・マックリーン、ファラオ・サンダースらのヴェテラン、SME、ヴァーヴ、ブルーノートらのメジャー・レーベル所属の若手のショウ・ケース、チャーリー・ヘイデンのリベレーション・オーケストラ、ザヴィヌル・シンジケート、ワールド・サクソフォン・クァルテット、ジャズ寄りのロックン・ロールのベン・フォールズ・ファイヴ、そしてもちろんニッティング・ファクトリーならではのトンガリ系若手など、他では観られないNYならではのプログラムである。
一方の6月20日からスタートするJVCジャズ・フェスティヴァルは、50年代半ばからのニューポート・ジャズ・フェスティヴァルの流れを汲み、リンカーン・センターやカーネギー・ホールなどの大ホールでのビッグ・ネームのコンサートというのが、このフェスティヴァルの特徴である。今年は、ニューヨーク移転25周年というアニヴァーサリー・イヤーで、期間は短くなったが、より密度の濃いコンサートを組んでいる。
インストゥルメントものでは、ハービー・ハンコックのオール・スター・ユニット、ジョージ・ベンソン、ウィントン・マーサリスとジョン・ルイスの共演、ヴォーカルものでは、カサンドラ・ウィルソン、アレサ・フランクリンのゴスペル企画、レイ・チャールスなどの豪華な顔ぶれ。ラテンものでは、ティト・プエンテとベイシー・オーケストラのラテン・ジャズ・ジャム、ブラジルものでは、カエターノ・ヴェローゾ、マリーザ・モンチなどが出演する。コンサート以外の企画では、ニュー・スクールや、マンハッタン・スクール・オブ・ミュージックで行われる特別レクチャーも興味深い。多彩なゲストを迎えての連続シリーズの"ビッグバンド史"や、マッコイ・タイナーの分析、エルヴィン・ジョーンズとロイ・ヘインズのスタイル比較論などの講座が開かれる。
8月16日からの、パナソニック・ヴィレッジ・ジャズ・フェスティヴァルは、前二つのフェスティヴァルとは趣が異なり、ヴィレッジ地域のジャズ・クラブを中心とした町内会のイヴェントのような雰囲気を持ったフェスティヴァルだ。期間中に各クラブは、より強力なプログラムを組む。またジャズを題材とした映画を集中的に上映するフィルム・シリーズ、ヴィンテージ物の中古盤やビデオ、CD、Tシャツなどを扱う屋台がでる縁日のような"ジャズ・フェアー"、子供にジャズの構造をわかりやすくレクチャーする"ジャズ・フォー・キッズ"などのイヴェントが10日間行われる。最終日の25日の打ち上げには、ワシントン・スクェア・パークで、フリー・コンサートが催される。ここ数年、大観衆を集めるこのコンサートに、今年はケニー・ギャレット・クァルテットとダイアン・リーヴスのグループが2本立てで出演する。ニューヨーク・ジャズ・シーンの夏の終わりを飾るビッグ・イヴェントとなるだろう。(パナソニック・ヴィレッジ・ジャズ・フェスティヴァルは2003年現在、行われておりません。)
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