2000年 12月号 Jazz Life誌 New York Report
New
York Jazz Witness
NYオルタナティヴ・シーンのミュージシャンを中心にすえた
ジミ・ヘンドリックス・トリビュート・コンサート
70年代のマイルス・ミュージックに多大な影響を与えた一人である、ギタリストのジミ・ヘンドリックスが、鬼籍には入ってから今年で30年になるが、現在のNYのオルタネイティヴ・ミュージック・シーンにも、彼の影響の痕跡を多く見いだせる。その中心ミュージシャンである、ヴァーノン・リード(g)と、メデスキー、マーティン&ウッドらが集結したジミ・ヘンドリックス・トリビュート・コンサートをリポートしたい。
その若すぎる晩年(27歳で死去)には、ジャズ&フュージョンに関心を寄せていたことで、知られるヘンドリックスだが、その死の一週間後にはギル・エヴァンス・オーケストラとのレコーディングが控えていた。この実現しなかった幻の共演は、74年に、"ギル・エヴァンス・オーケストラ・プレイズ・ザ・ミュージック・オブ・ジミ・ヘンドリックス"(RCA)として、ギル・エヴァンス(arr)のアレンジが、日の目を見ることになる。ヘンドリックス自身が、音楽を"A
Magic Science"とコメントしていたことから、マジック・サイエンス : セレブレイティング・ジミ・ヘンドリックス"と、銘打たれたこのコンサートには、リズム陣に、オルタネイティヴ・シーンのカリスマ・バンドである、メデスキー、マーティン&ウッド(MMW)、その影のメンバーといわれるDJロジック(turntables)、フロントにリヴィング・カラーのヴァーノン・リード(g)、ソウル・ファンク・シンガーのマーク・アンソニー・トンプソンと、サンドラ・セイント・ヴィクター、ホーン・セクションにマイルス・エヴァンス(tp)率いるギル・エヴァンス・オーケストラのピック・アップ・メンバーに、ヘンドリックスの音楽を、より洗練されたスタイルで現代に継承しているハイラム・ブロック(g,vo)、70年代のマイルス・ミュージックの重要メンバーだったタブラ奏者のバダル・ロイ、ステージ背景のスクリーンには、ヴィジュアル・アーティストのグレン・マッケイの抽象的なスライドが、サウンドとシンクロして投影されるという、ボーダーレスな顔合わせで行われた。
MMWと、DJロジックが醸し出す混沌としたサウンド・スペースの上に、ヴァーノン・リードが登場し、ジミ・ヘンドリックスの十八番であった、ディストーション・ギターによるアメリカ国歌のサウンド・コラージュから、コンサートは始まった。リードが暗転したあと、サウンドはアメーバのように不定型にうごめき、"ザ・サード・ストーン・フロム・ザ・サン"へと変化する。ロジックのスクラッチが、MMWをインスパイアし、スパイスを効かせている。この4人がグルーヴと、ハーモニーを自由自在にコントロールし、ソリスト達を違和感なく、アンサンブルの中にとけ込ませている。ホーン・セクションと、ハイラム・ブロック、バダル・ロイが、参加し故ギルエヴァンスのアレンジによる"リトル・ウィング'が演奏された。スティング(vo、b)もギル・オケと共演して、カバーしたこの曲では、クリス・ウッド(b)がエレキ・ベースに持ち替え、ディストーションがかかったヘンドリックスばりのソロをとり、またリードとハイラムが、壮絶なギター・バトルを聴かせた。マーク・アンソニー・トンプソンと、女性ヴォーカルのサンドラ・セイント・ヴィクターが加わった。リード、ハイラムも、ファンキー・ヴォイスで、2人にひけをとらない。ソリスト達は、それぞれのバックグランドに根付いたアドリブで、競い合い、化学反応を起こしたように、アンサンブルが変貌を遂げてゆく。ヴァーノン・リードが、ハードロック魂あふれるサウンドで仕掛ければ、ハイラムは、ファンク・ジャズ色のフレーズで切り返す。フロント陣の熱いソロの応酬に、メデスキー(kb、org)は、クールで理知的なソロで、コントラストを見せる。ロジックのリズミックな、ターンテーブルのスクラッチ・ソロは、リズム・ギターのカッティング・ソロと遜色がない。マーティン(ds)、ウッド(b)、バダル・ロイ(tabla)の大きくうねるようなグルーヴが、アンサンブルを、大きく包み込んでいる。さらに、スクリーンでは、グレン・マッケイの70年代風のヘンドリックスのステージ衣装をも彷彿させるサイケデリックな抽象イメージや、ポートレイトのコラージュが次々と映し出され、ステージ全体が、一大パノラマとなった。ラストは、セイント・ヴィクターが、リード・ヴォーカルをとったロック・バラード"ヘイ・ジョー"に追悼を込めてプレイし、コンサートは大団円となった。
ジミ・ヘンドリックスが、蒔いて去っていった種子は、30年の時を経て、様々な音楽分野で、大きな果実を実らせている。
(10/21/00 於ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージック)
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