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2002年 10月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

“ジャズ・モービル”で開催された
リチャード・ロジャース生誕100周年コンサート

 現在のヒップ・ホップのように、かつてジャズもアフロ・アメリカン・コミュニティの中で、日常的に親しまれていた時代があった。38年前から続く、夏のフリー・コンサート・シリーズ、ジャズ・モービルは、50、60年代のジャズがコミュニティのヒップな大衆音楽だった時代を窺える。ハーレムの、マーカス・ガーヴィー・パークの野外ステージに登場した、デヴィッド・“ファットヘッド”・ニューマン・クインテットの、リチャード・ロジャース(comp.)に捧げられた、コンサートをお伝えしよう。
 
 ミュージカル、「サウンド・オブ・ミュージック」や、映画音楽、多くのスタンダード・ソングの作曲家として知られるリチャード・ロジャースは、マウント・モリス・パークのすぐ近くに生まれ育った。今年、生誕100周年を迎えたロジャースは、その晩年に、幼少期を過ごしたこの公園に、75人編成のオーケストラの演奏が可能で、1,600人の観客を収容できる野外ステージを、寄贈した。公園名は、73年にジャマイカのラスタファリ思想家、マーカス・ガーヴィー牧師の業績をたたえて、マーカス・ガーヴィー・パークとなる。
 この日のジャズ・モービルは、いつものトラックに牽引された移動ステージから、広いステージに移り、多くのゲストを迎えロジャースの100回目の誕生日を祝福した。オープニングは、アポロ・シアターで上演されているミュージカル、“ハーレム・ソング”に出演しているシンガー、B.J.クロスビーが、「マイ・フェヴァリット・シング」を、ピアノの伴奏で朗々と歌い上げる。ジャズ・モービルの創設者で、代表でもあるドクター・ビリー・テイラー(p)や、NY市長の代理人、マンハッタン区の区長がスピーチをし、ロジャース&ハマースタイン財団と、ロジャース・ファミリーを、顕彰した。
 レセプションの静寂から、ステージは一変し、デヴィッド・“ファットヘッド”・ニューマン(ts,as,fl)が、ロニー・マシューズ(p)、ブライアン・キャロット(vib)、ジョン・メネガン(b)、ルディ・ペチャワ(ds)らのクインテットを、率いて登場した。ニューマンは、テキサス州ダラス出身。アーネット・コブ、バディ・テイト、イリノイ・ジャケーら、テキサス・テナー列伝に連なる、ベテラン・プレイヤーだ。50年代に、レイ・チャールズ(vo,p)・グループに参加し、頭角をあらわして以来、ジャズとR&Bのフィールドで、活躍している。近年は、ハイ・ノート・レコーズから、コンスタントにストレイト・アヘッドな新作を、リリースしている。
 ヴィブラフォンのキャロットのバッキングが、効果的なサウンド・ストラクチャーで、演奏が始まる。最新作「Keep the Sprits Singing」からの、選曲だ。4ビートだけでなく、ルーズなタテノリの曲では、ニューマンのアーシーな持ち味が、発揮される。アルト・サックス、フルートと持ち替えて、様々なヴォイスを聴かせてくれた。ベテラン・バッパーのマシューズのピアノが、ジャズのルーツを誇示している。キャッチーなメロディの、オリジナルチューンに続いて、リチャード・ロジャースに捧げた「ブルー・ムーン」が演奏される。エルヴィス・プレスリー(vo,g)のヴォーカルでも知られる有名曲だが、ニューマンは、スロー・テンポでサックスをむせび泣かせた。ニューマンのフレイジングは、派手さはないが、訥々とした語り口が、美しい音色、メロディとともに、独特の説得力を持っている。老練なブルース・シンガーを思わせるトーンは、現代のジャズ・シーンいおいて、貴重な存在だ。アップ・テンポにチェンジし、スタンダード曲「チュニジアの夜」。有名曲が続き、観客席は盛り上がる。フォト・ジャーナリスト、吉田ルイ子のルポルタージュ「ハーレムの熱い日々」の中に描かれた、60年代後半のハーレムの夏の日に、ジャズ・モービルにの乗って、アート・ブレキー(ds)&ジャズ・メッセンジャーズがやって来て、コミュニティの人々は大喜びというシーンを、彷彿させる。
 音楽を、アカデミックに捉えている学校や、ビジネス上の制約が多い高級ジャズ・クラブとは異なった、演奏する喜びと聴く楽しみが、日々の生活の中のひとつのシーンとして直結している姿をかいま見た。テクノロジーが進歩し、情報の氾濫する現代だからこそ、この様なアナログなコミュニケーションが、ジャズのエッセンスをキープする、大きな要素なのであり、今後も40年、50年と続いてほしいジャズ・モービル・コンサートである。(8/16/2002 於マーカス・ガーヴィー公園内、野外オーディトリアム)

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