2004年 10月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

ニューヨリカン・サルサの真髄
スパニッシュ・ハーレム・オーケストラ

6月に始まるセントラル・パークのサマー・ステージを皮切りに、夏の終わりの9月第一週の3連休週末(レイバー・デイ・ウィークエンド)まで、今年は例年以上に毎日どこかの公園や街角で、様々な野外無料コンサートが催された。ハーレムのマーカス・ガーヴェイ・パークでの、地元コミュニティが生んだのサルサ・グループ、スパニッシュ・ハーレム・オーケストラの野外大ダンス・パーティ・ライヴをリポートしよう。
 
 今年の夏は、アメリカの景気復調気配を反映してか、大企業の寄附によって成り立つフリー・コンサートが多く、充実したシーズンだった。JVCジャズ・フェスティヴァルと連動したランディ・ブレッカー(tp)のスペシャル・グループでスタートした恒例のセントラル・パーク・サマー・ステージには、オル・ダラ(tp,vo,g)、デイヴィッド・マレイ(ts)&グオ・カ・マスターズも登場し、夏のはじまりを告げる。
 7月からは今年40周年を迎えた移動ステージ・コンサート、ジャズ・モービルが、シーズン中ほぼ毎日どこかで行われ、クラーク・テリー(tp,vo)、ジミー・ヒース(ts)、バリー・ハリス(p)ら大ベテランも出演した。ダウンタウンのハドソン・リヴァー・フェスティヴァルには、フリー・ジャズの巨匠セシル・テイラー(p)や、パワー・アップしたステージを聴かせてくれたロイ・ハーグローヴ(tp,vo)&RHファクター、パソコン&ミュージック・ショップのJ&R主催のフェスティヴァルには、アル・ジャロウ(vo)、リズ・ライト(vo)、ベニー・ゴルソン(ts)らが熱演する。リンカーン・センターも、8月からは3つの野外ステージでコンサート、ダンス・パフォーマンス・イベントを主催、オープニングにはソニー・ロリンズ(ts)が登場し、チック・コリア(kb)の再結成エレクトリック・バンドや、オスカール・カストロ・ネヴァス&パウロ・ジョビン(g,vo)のボサノヴァ・ユニットが参加した。ミッドタウンのオアシス、ブライアント・パークではランチ・タイムに"Piano in Park"という企画で、ソロ・ピアノをフィーチャー、ジュニア・マンス(p)も演奏した。
 
 125丁目を中心とした、アフロ・アメリカンのエリア、ハーレムの南東部が、プエルトリコ、キューバを中心としたカリブ諸島の出身者が多く住むスパニッシュ・ハーレムだ。60年代初頭、ハーレムでジェイムス・ブラウン(vo)が、ファンクの烽火を上げた頃と時を同じくして、スパニッシュ・ハーレムでは、モンゴ・サンタマリア(per,vo)、ティト・プレンテ(per,vo)らが、カリブの様々なリズムと、NYならでは洗練されたメロディ・センスが融合したグルーヴィーなダンス・ミュージック、ニューヨリカン・サルサを生み出した。
 スパニッシュ・ハーレム・オーケストラは、ラテン・ミュージック・レーベルRyokoLatinoのプロデューサー、アーロン・ルイス・レヴィンソンが、2000年にコミュニティ出身のアーティスト達が、20世紀のポピュラー・ミュージック・シーンに残した足跡と、80年代頃の熱気を、記録にとどめたいとの意図のもとに、ルベン・ブラデス、ウィリー・コロン、セリア・クルーズらのミュージック・ディレクターを務めたキーボーディスト/アレンジャーのオスカール・エルナンデスを起用して、始まったプロジェクトである。このサルサ発祥の地に伝わる膨大なヒット・チューンからの選曲、アレンジ、優秀なミュージシャンのセレクトに2年の月日を費やし、2002年にリリースされたファースト・アルバム"Un Gran Dia En El Barrio"(Ryoko/Ropeadope)は、アメリカでも大ブームとなったキューバのブエナ・ヴィスタ・ソシアル・クラブへの、ニューヨーク・ラテン・コミュニティからの返礼といわれ、2003年のグラミー賞ラテン・ミュージック部門にノミネートされた。全米、ヨーロッパ、香港、日本でのツアーは各地で好評を博し、今年ルベン・ブラデスをフィーチャーしたセカンド・アルバムを"Across 110 st."(Libertad)をリリース。ラテン・チャートを上昇中である。
 ニューヨーク市公園財団の主催のこの日のコンサートは、スパニッシュ・ハーレムと、アフロ・アメリカン・エリアのハーレムの間にあるマーカス・ガーヴェイ・パークで行われた。地域活性化のためのこのイベントに、アフロ、スパニッシュ双方のコミュニティから老若男女、幅広い観客が集まった。まずはインスト・グループで登場し、リーダーのオスカール・エルナンデス(kb)が、演奏とともにメンバーを紹介する。ヴォーカル・リーダー格のレイ・デ・ラ・パスと、マルコ・ベルムデス、ウィリー・トレスがステージに現れると、客席がすぐにヒート・アップする。ダンスを誘うアジテーションに、観衆がステージ前で踊り始めた。ボビー・アジェンテ、パブロ・”チノ”・ニュネス、ホルヘ・ゴンザレスのパーカッションとジョン・ウォルシュ(tp)、ドン・リーガン(tb)を中心とした鋭いホーン・セクションのアンサンブルがつむぐグルーヴに煽られるように、ダンスの輪が拡がる。ホーム・タウンならではのバンドとオーディエンスの一体感で、人々の日々の生活、喜怒哀楽もすべて音楽とダンスにとけ込んで昇華した。ラテン・ソウル・ミュージックのサルサの真骨頂だ。次々と繰り出されるヒット・チューンに熱狂度が増し、あっという間の1時間30分が過ぎ去る。コミュニティの夏の終わりを告げる大きな祝祭であった。(8/19/2004 於 Marcus Garvey Park, NYC)
 

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