2004年 11月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

円熟期を迎えて充実したアンサンブルを
聴かせるボブ・ミンツァー・ビッグバンド

7人の大編成が生み出す迫力のヴォリュームと、グルーヴ。ビッグバンドは、30年代のダンス・ブーム時代から、現在もジャズのもっともエキサイティングなフォーマットだ。NYのモダン・ビッグバンドでは、マリア・シュナイダー・オーケストラと双璧をなすボブ・ミンツァー・ビッグバンドが、ニュー・アルバム「ライヴ・アット・マンチェスター・クラフツメンズ・ギルド」(ユニバーサル)を引っさげて、久し振りにヴィレッジのジャズ・クラブ "スウィート・リズム"に登場した。
 
 30年代、40年代のハーレムでは、それぞれのボールルーム(ダンス・ホール)を拠点とする、デューク・エリントン・オーケストラや、フレッチャー・ヘンダーソン・オーケストラ、カウント・ベイシー・オーケストラらが、覇を競い合っていた。時代は下って21世紀の現在、大所帯のビッグバンドをレギュラー・ベースで維持するのには困難がつきまとうが、ヴィレッジ・ヴァンガードには、毎週月曜日の旧サド・ジョーンズ=メル・ルイス・オーケストラである、ヴァンガード・オーケストラ、バードランドには3代目のポール・エリントン率いるデューク・エリントン・オーケストラと、アルトゥーロ・オファレル(p)が父から引き継いだチコ・オファレル・アフロ=キューバン・ジャズ・ビッグバンド、11月からイリディウムに出演するミンガス・ビッグバンドら老舗グループが定期的に出演している。
 またジャズ・スタンダードを本拠地にするスティーヴン・バーンスタイン(tp)率いる異色バンド、ミレニアム・テリトリー・オーケストラ、ファット・キャットの若手ジェイソン・リンドナー(p,org)・オーケストラらの新興勢力も気を吐いている。評論家筋では、NYナンバー1の評価の前述のマリア・シュナイダー・オーケストラ、そろそろベテランの領域に入ってきたこのボブ・ミンツァー・ビッグバンド、ジャズ・ヴァージョンのニューヨーク・フィルといっても過言ではないウィントン・マーサリス(tp)率いるリンカーン・センター・ジャズ・オーケストラと、百花繚乱の隆盛である。
 
 80年代前半に時代のあだ花のように咲き誇った、ジャコ・パストリアス(el-b)のワード・オブ・マウス・オーケストラ。ギル・エヴァンス(p,arr)の影響を強く受け、ウェザー・リポートのジョー・ザビヌル(kb)のシンセ・オーケストレーションを、アコースティックに再現することを目指したジャコの野望は、商業的には挫折し、あえなく散ってしまった。このグループのアレンジャー兼ソリストに起用されて広く名を知られるようになったのが、ボブ・ミンツァー(ts,ss,b-cl)である。1983年に自己のビッグバンドを結成、ジャコの衣鉢を継ぎながら、トラディショナルとコンテンポラリーを絶妙のバランス感覚でブレンドしたサウンドで、19枚のアルバムをリリースし、5回のグラミー賞ノミネーションを経て、2002年「オマージュ・トゥ・カウント・ベイシー」(DMP)でついに受賞の栄誉に浴した。スコアが数多くケンドール・ミュージックから出版され、世界中のアマチュア・プレイヤーからも支持されているグループである。またラッセル・フェランテ(kb,p)らとのコンテンポラリー・ジャズ・ユニット "イエロー・ジャケッツ"、自己のクァルテット、クィンテットでも活躍している。
 
 オール・スター・メンバーのため、一堂に会することが難しいミンツァー・ビッグバンドだが、この日のホーン・セクションはレコーディング・メンバーが集まった。一曲目はニュー・アルバムから「ジェントリー」。サックス陣の持ち替えのフルート、クラリネット・アンサンブルが、ソフトなサウンド・テクスチャーを醸し出す。かつてこのクラブの前身スウィート・ベイジルで、マンディ・ナイトにレギュラー出演していたギル・エヴァンス・オーケストラへの、オマージュのようなハーモニーだ。一転してファンキーなビートの「ゴー・ゴー」となる。ミンツァーが、イエロー・ジャケッツに提供したオリジナル・チューンだ。ヘヴィー級のホーン・セクションにブースターを装着したように鼓舞するのは、ニュー・フェイスのドラマー、オベッド・カルヴェラと、ベテランのジェイ・アンダーソン(b)だ。ミンツァーの中で、ビッグバンドとイエロー・ジャケッツは同心円を描いていることを窺わせる編曲である。
 重厚なサックス・ソリが、エリントン・オーケストラを思わせるウォーキング・テンポのスウィング・チューン「フーズ・ウォーキン'・フー?」は、トラディショナル色が強い佳曲だ。ビッグバンドに書き下ろしたオリジナル曲、イエロー・ジャケッツの大編成ヴァージョン、敬愛するサド・ジョーンズ(tp)のカヴァー曲と、幅広いレパートリーが演奏され、ソリストとアンサンブルの有機的な融合が、スリリングで心地よい。
 結成から20年以上が過ぎて、円熟の境地に達したボブ・ミンツァー・ビッグバンドは、デューク・エリントンにはじまり、ギル・エヴァンス、サド・ジョーンズ=メル・ルイスと連なるモダン・ビッグバンドの系譜に堂々たる存在感を示している。今後はスウィート・リズムをホームとし、ほぼ隔月で月2回の水曜日に出演し、来年早々にはニュー・アルバムのレコーディングが予定されている。21世紀のNYビッグバンド・シーンも、目が離せない。(9/22/2004 於Sweet Rhythm, NYC )
 
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