2000年 1月号 Jazz Life誌 New York Report
New
York Jazz Witness
スムース・ジャズからハードボイルド・サウンドへ
ヴェルヴェット・ラウンジのレイチェルZ 東京とは、対照的にバブルのまっただ中といったNYでは、ライヴをレギュラーで行うクラブ以外でも、週末の夜のみライヴを行う、レストランや、バー・クラブが増えてきた。このようなギグは、ヴィレッジ・ヴォイスや、NYタイムスに、アナウンスされることは少ないが、若手や中堅どころのミュージシャンが、実験的な演奏をしていることがある。今回は、ヴェルヴェット・ラウンジに出演しているレイチェル・Z・グループをリポートしたい。
このヴェルヴェット・ラウンジがあるノリータ(North of Little Italyの略)地区は、ここ4、5年の好景気の影響で、かつてギャラリーや、ヒップなセレクト・ショップなどが、多かったソーホー地区が、大手デザイナー・ショップなどの進出により家賃が高騰したため、カルチャーの発信地であったソーホーが、そのまま東へ移動した地域で(ギャラリー関係は、チェルシー地区に移動)、インディペンデント・デザイナーのショップや、セレクト・ショップ、バー、レストラン、クラブが多く、現在のNYカルチャーの一翼を担っている。ヴェルヴェット・ラウンジでは、11月に入ってから2階のバーで、木曜にレイチェル・Z・グループのライヴ、金、土曜日はDJを入れて盛り上げている。
レイチェル・Zは、88年にマイク・マイニエリ(vb)に見いだされ、新生ステップス・アヘッドのキーボード・プレイヤーに、起用されて以来アル・ディメオラ(g)、ナジー(sax)、ジミ・タネル(g)らのグループで活躍、ウエイン・ショーター(ts,ss)の95年のリーダー作“ハイ・ライフ”(Verve)では、シンセ・アレンジと、アコースティック・ピアノで重要な役割を果たし、ツアーでは、ミュージック・ディレクターを務めた。ショーターとの2年に及ぶコラボレーションは、レイチェルに多大な影響を与え、アーティストとして、ひとまわり大きな成長をみせてくれた。最新作“ラヴ・イズ・ザ・パワー”(GRP)では、スムース・ジャズに取り組んでいる。
来春エピックよりリリースされる新作をレコーディング中のレイチェルは、ジョニー・リコー(g)、ミリアム・サリバン(b、el-b)、ロドニー・ホームス(ds)というレコーディングと同じメンバーで出演した。全曲オリジナル・チューンと聞いていたので、スムース・ジャズよりの演奏を予想していたら、レイチェル自身のヴォーカルによるハード・ロックともいえる演奏で、気持ちよく期待は裏切られた。レイチェルのキーボード・ソロは、テンション・ノートを含んだリズミックなアプローチで、スティング・バンド時代のケニー・カークランド(p、kb)を思い出させる鋭いアドリブを、聞かせてくれた。ショーター・グループの同期生のロドニー・ホームスのタイトなドラミングと、ミリアム・サリバンの粘るウッド・ベースのラインのコンビネーションも、心地よい。サリバンは持ち替えでエレキ・ベースも弾いていたが、このレコーディング・プロジェクトのために始めたとは思えない正確さで、グルーヴをキープしていた。メンバーの中で唯一ジャズのバックグランドを持たないジョニー・リコーのギター・ソロは、ディストーション・サウンドと、うねるリズムで、レイチェルのジャズよりのバッキングの上で、強烈な存在感を主張していた。
レイチェルが、ショーターから受けた大きな影響の一つに、4つのコードを循環させる進行で曲を作り、より自由なスペースを設定する作曲方法が挙げられると語っていたが、オリジナル・チューンの中に多く、その痕跡が認められる。“レイン”というチューンでは、ハードな8ビートのうえで、ヴォーカル・リフはハーモニーのインサイドにありながら、アドリブはフリーの一歩手前ぐらいのアウトサイドで、きわどく繰り広げられ、ショーター・グループと共通する、サウンド・スペクタクルが、現出した。。
現在、レコーディング中の新作は、70年代から80年代にかけて、ジャズ・ハーモニーを、ポップスに応用し、洗練されたサウンドで時代を築いたグループ、スティーリー・ダンの、第3のメンバーでプロデューサーのゲイリー・カッツとのコラボレイションによって行われている。現在のレイチェルの指向を、どのようにカッツが方向付けし、まとめ上げるのかが興味深い。スムース・ジャズから、ハードボイルドなサウンドにシフトしてきたレイチェル・Zは、これからどのような音世界をみせてくれるのだろうか。
(11/18/99 於 ヴェルヴェット・ラウンジ)
インフォメーション
Velvet Lounge
223 Mulberry Street
(Bt. Prince & Spring St.)
New York NY 10012
tel. (212)965-0439