2003年 12月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

アポロ・シアターに世代を超えたアーティストが集結!
チャリティ・コンサート『A Great Night in Harlem』

 国民健康保険がなく、フリーランサーは高額な保険料を民間の保険会社に支払わなければ加入できないアメリカでは、悠々自適な老後を過ごせる一部のミュージシャン以外は、厳しい現実が存在する。彼らを援助するために1989年に設立されたのが、ジャズ・ファウンデーション・オブ・アメリカ(JFA)である。今年で3回目を迎える、恒例のチャリティ・コンサート、"A Great Night in Harlem"をお伝えしよう。
 
 ブラック・ミュージックの殿堂、ハーレムのアポロ・シアターに、この日、ビル・コスビーや、ブランフォード・マーサリス(ts)らが、司会者、プレゼンターとして参加し、クラーク・テリー(tp)、ジミー・ヒース(ts)ら大ベテランら、多くのミュージシャンが集結した。今年のスペシャル・トリビュートは、共に4月に逝去したシンガーのニーナ・シモンと、コルトレーン、ユセフ・ラティーフとともに、ハーレムのアフリカン・カルチュアル・センターの設立に尽力した、ナイジェリア人のババトゥンデ・オラトゥンジに捧げられる。
 チャーリー・パーカー(as)や、マイルス・ディヴィス(tp)らジャズ・レジェンド達と、共演歴があるようなベテラン・ミュージシャンでも、近年のジャズ・クラブや、レコーディング・チャンスの減少、50、60年代のレコーディングは買い取り契約だったために、CDで再販されても印税収入がないという状況から、十分とはいえない年金収入に頼らざるえなくなり、必要な医療サービスが受けられない、家賃が払えないという現実に直面することがある。彼らに、公立学校のスクール・バンドのインストラクター等の仕事を斡旋し、医療保険を確保して、穏やかに安定した老後を過ごすための救いの手をさしのべるのが、ジャズ・ファウンデーション・オブ・アメリカ(JFA)の使命だ。昨年のコンサートでは、様々な企業、個人から総額$190,000以上の寄付を集め、およそ300人のミュージシャンを救済した。ディジー・ガレスビー(tp)が、最後の時を過ごしたニュージャージーのイングルウッド・ホスピタル&メディカル・センターでは、ガレスビーの遺志により、ディジー・ガレスビー記念基金を設立、治療、手術、検査を無料で提供している。
 
 ジャズ・マニアとしても知られる、コメディアンのビル・コスビーが、ユーモアたっぷりの司会で、この日のコンサートの舵を取る。クインシー・ジョーンズ、コンサート・プロデューサーのジョージ・ウェイン、ウーピー・ゴールドバーグらが、次々とステージに登場し、コスビーと軽妙なトークを交わす。スポンサー企業、医療関係者など、JFAのサポーター達が、次々と顕彰される。ジミー・ヒースも登場し、長年の演奏活動と、ジャズ界への功績を顕彰して、クリスタルのトロフィーが授与された。受賞記念パフォーマンスは、クラーク・テリー(tp)、フランク・ウェス(ts,fl)、ジョン・ファディス(tp)、アントニオ・ハート(as)とロイ・ヘインズ(ds)の孫、マーカス・ギルモア(ds)が参加している、83歳から17歳までの3世代にまたがる、スペシャル・グループで、若々しいバビッシュな演奏を聴かせてくれた。ステージにはプレゼンターとして、ブランフォード・マーサリス(ts)があらわれ、評論家のナット・ヘントフを紹介する。57年からヴィレッジ・ヴォイス紙に、ジャズ、人権、政治問題のコラムを寄稿し、名著「ジャズ・イズ」、「ジャズ・カントリー」を執筆した。JFAでは、スポークス・マン的役割も担っており、ジャズ・コミュニティへの長年の貢献が高く評価された受賞である。ニーナ・シモンの実娘シモンのライヴが始まった。ブロードウェイ・ミュージカル”アイーダ”で活躍中の彼女は、母譲りのソウルフルなヴォーカルで、圧倒する。
その興奮もさめやらぬ間に、舞台のライトがオフになった。突然、アフリカン・パーカッションのアンサンブルが響き渡り、オーケストラ・ボックス席の後ろにスポット・ライトが当たる。ナイジェリアからやって来て、アフロ・アメリカンの誇りを覚醒させた、ババトゥンデ・オラトゥンジに捧げる演奏が始まった。様々なドラム、笛、ダンサーが通路をパレードし、アポロ・シアター全体をステージとした。
 インター・ミッションを経て、寄付への謝辞、JFAに援助によって、演奏活動が再開できたソウル・シンガー、ジミー・ノーマンらのパフォーマンスが続き、大トリは、新作「グラマード」も好調なカサンドラ・ウィルソンが、キューバの伝説的パーカション奏者、キャンディドを擁したスペシャルグループで登場、ニーナ・シモンを思わせるディープなヴォーカルを捧げる。最後の曲には、シモンも再びシット・インして、楽しいデュエットを聴かせてくれた。
 JFAの最終目標は、リタイアしたミュージシャンのための共同住宅の建設である。医療ケアの充実と、格安で部屋を提供し、食堂でのランチ・サービスやジャム・セッション・スタジオなど、孤独を感じることなく、平穏な晩年を過ごせる施設が出来ることを、誰もが待ち望んでいる。(10/16/2003 於The Apollo Theatre, NYC)
 
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