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1998年   4月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

ハード・バップの伝統と新しい音のブレンド
エリック・アレキサンダーの“Own Voice”

 ルドルフ・ジュリアーニが市長に就任して以来、NYは"ジェントリフィケーション"と名付けられた都市再開発計画によって、確実にクリーンで安全な都市へ変貌を遂げようとしている。以前はポルノ・ショップが軒を連ねていた42ndストリートも、古い劇場がリニューアル・オープンし、ディズニーやワーナー・ブラザースのショップが誘致され、観光街に生まれ変わった。ホームレス・ピープルとドラッグ・ディーラーが多く見られたイースト・ヴィレッジは、閑静な住宅地と、しゃれたショッピング、レストラン街となりつつある。以前は貧しいヨーロッパ系白人の移民外であったロウアー・イースト・サイドも、好況による家賃高騰から、ソーホー地区からブティックやレストランが移転してきて様変わりをし始めた。今回は、ジャズクラブは、トライベッカに移転するまでニッティング・ファクトリーがあったこの地域に、昨年末(1997年末)オープンしたクラブ"ダーマと、そこにレギュラーで出演中のエリック・アレキサンダー(ts)をとりあげてみよう。

 "ダーマ"のあるオーチャード・ストリートは、革ジャケット布地の安売り店が建ち並び、昼間はアメ横のような雰囲気が漂うエリアである。夜になると、ここ最近にオープンしたバーが数軒開き、様相は大きく変わる。細長く、天井の高いロフト・スペースだった靴屋を改装した"ダーマ"は、長いカウンターといくつかのテーブル席の奥、ロフト・スペースの2階にステージがあり、客は1階から見上げて円巣を聴くというスタイルになっている。フィリップ・スタルク風のモダンなインテリア・デザインに、充実したリカー・コレクション、バーテンはアルバイトの女の子といったところだが、居心地のよいバーである。ブッキングはエリック・アレキサンダー(ts)らNYを拠点とする若手ミュージシャン、アシッド・ジャズ、毎週木曜のグルーヴ・コレクティヴ、ドラムンベースと多彩だが、まだ模索中という感はぬぐえない。この日はノー・カヴァー・チャージだったがふだんは入り口で$5.00のミュージック・チャージを支払うシステムとなっている。インテリアの雰囲気と$5.00の入場料は、80年代にソーホーにあり、ケニー・カークランド(p)やマーカス・ミラー(b)、晩年のジャコ・パストリアス(el-b)がよく出演してた、クラブ'55グランド・ストリート"を思い出させる。

 この日のエリック・アレキサンダー・グループは、フロントにスティーヴ・ディヴィス(tb)との2管、リズム・セクションにジム・ロトンディ(p/本来はtp)。ウゴンサ・オケグォ(b)、ジョー・ファーンズワース(ds)と、アルバム・レコーディング・メンバーからのミュージシャンを中心としたクィンテット編成で、出演した。骨太なテナー・サウンドでコルトレーンばりに吹きまくった「インプレッションズ」、一変してソフトなトーンでスタン・ゲッツの用に歌う「イパネマの娘」、ファンキー・スタイルのリー・モーガン(tp)ノブルース「スピード・ボール」、美しいハード・バップ・バラードの「ビューティフル・フレンドシップ」、ソニー・ロリンズ(ts)在籍時代のマックス・ローチ=クリフォード・ブラウン・クインテットのようなアレンジの「アイ・ゲット・ア・キック・アウト・オブ・ユー」と、さながら1950年代、60年代のテナー変遷史といった印象のパフォーマンスであった。
 多彩なスタイルを器用にこなし、マクロな視点から見るとハード・バップのイディオムに則っているアレキサンダーのプレイは、ミクロの視点から見ると、50年代、60年代にはなかったフレイズやアプローチがいくつか見受けられ、そのブレンド具合が、アレキサンダーの“Own Voice”として表現されていると言えよう。“Own voice”を持っているかどうかという問題は、この10年の間に頭角をあらわしてきた、過去のスタイルを十分に研究し、テクニック上ではパーフェクトに近いメイン・ストリーム系の若手達の共通の課題である。一部のミュージシャンの中には、まだスタイルを構築中の段階で、米メジャー・レーベルの若手スターを作るというマーケティング戦略に乗り、不自然な形で売り出され、将来性ある才能がつぶされているという例も見られている。アレキサンダーは、この課題を克服しつつあると言えよう。今後のいっそうの飛躍と、またこの様に若手ののプレイにふれられるスペースが維持され、増えていくことをきたししたい。

 “ダーマ”は残念ながら、閉店し現在は(2002年11月)はありません。エリック・アレキサンダーは、NYにいるときはスモーク等によく出演しています。

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