1998年   5月号 Jazz Life誌 New York Report

New York Jazz Witness

ゴットリーブからリーボヴィッツまで。
写真という瞬間芸術が語るモダン・ジャズ

 即興音楽であるジャズ。だが、ジャズがジャズたりうるの、その“一瞬の危うさ”にかけているのは、何もプレイヤーだけではない。今回は、ジャズメンの瞬間の記録をフィルムに焼き付ける、フォトグラファー達にスポットをあててみた。

 写真というメディアは、現代においてコンピューターによるマニピュレーション技術の発達から多様化しているが、瞬間の記録というドキュメンタリー性は、いまだ大きな要素を占めている。ジャズの歴史において数人のフォトグラファーが、それぞれのスタイルで、その時代の雰囲気を写しこんだ瞬間を切り取っている。今回はそんなフォトグラファーたちと、NYで手に入れやすい彼らの写真集を紹介したいと思う。
 1930年代後半から40年代のモダン・ジャズ誕生の瞬間に立ち会い、多くの写真を残しているフォトグラファーは、ウィリアム・ゴットリーブであろう。1936年からジャズ・シーンの撮影を始めたゴットリーブ。スウィング全盛時代の、サッチモことルイ・アームストロング(tp,vo)、デューク・エリントン(p)、ベニー・グッドマン(cl)らのステージ・ショット、ビ・バップ創生期のチャーリー・パーカー(as)、ディジー・ガレスビー(tp)、セロニアス・モンク(p)、若き日のマイルス・デイヴィス(tp)の写真は、貴重な時代のドキュメントである。ワシントン・ポスト紙や、ダウン・ビート誌に寄稿しているライターでもあるゴットリーブ自身によるキャプションも、ミュージシャンたちの写真をいっそう際立たせている。
 1950年代、60年代のジャズ・シーンを記録したフォトグラファーで、モダン・ジャズの代名詞といった写真を多く残しているのは、ブルーノート・レコードの共同オーナーの1人であったフランシス・ウルフであろう。ウルフの膨大な作品の特徴は、ほぼすべての写真が、ブルーノート・レコードのハウス・エンジニアであるルディ・ヴァン・ゲルダーのスタジオでのレコーディング・リハーサル中に撮影されていることである。レコーディング・セッションにおける撮影では、時間的な制約はあるが、ミュージシャンの精神集中を妨害しない限りは、直接語りかけ、様々なアングルで最高の表情を撮すことが可能となる。ヴァン・ゲルダーによると1950年代半ばから、60年代にかけては、毎週土曜がブルーノートの日で、レコーディングが行われていたということだが、ウルフはレコード・プロデューサーとして立ち会いつつ、ライト一灯をスタジオに持ち込み、暗闇の中に浮かび上がるミュージシャンの活き活きとした表情を写し続けた。1971年にウルフが没したあと、その膨大な作品のネガは、盟友アルフレッド・ライオンの手元に残ったが、ライオンの没後はマイケル・カスクーナが主宰するモザイク・レコードに移り、"The Blue Note Years The Jazz Photography of Francis Wolff"という写真集に編集された。またブルーノート関連の本では、"The Blue Note The Album Cover Art Vol.1, 2"という本も出版されている。行方均氏による翻訳も日本で手にはいるが、ヴォーグ誌からジャケット・デザイナーとして引き抜かれたリード・マイルスのグラフィック・デザインによって、ウルフのオリジナル・プリントが、どのようにジャケットになったかを比較するのも面白い。

 ウルフと同時代に活動し、現在も活躍中のフォトグラファーは、東海岸ではチャック・スチュアート、西海岸にはウィリアム・クラクストンがいる。スチュアートは、コンサート、レコーディング、フォト・スタジオにおけるポートレートと様々なシチュエーションでミュージシャンたちの素顔を撮り続けているが、彼の代表作はインパルス時代のジョン・コルトレーン(ts,ss)の写真であろう。晩年が近づくにつれ聖者のようなただずまいを見せるコルトレーンを、スチュアートのカメラは克明に記録している。彼の40年以上の長いキャリアのポートフォリオは、"Chuck Stewart's Jazz File"としてまとめられている。これは1985年までの作品が収められているが、それ以降の作品を加えた増補版の出版が期待される。
 フォトグラファーのブルース・ウェーバーの監督作品であるチェット・ベイカー(tp,vo)の伝記映画"Let's Get Lost"の中で、イメージ・カットとして挿入されている、若き日のチェット・ベイカーのポートレート群が印象的な、ウィリアム・クラクストンは、レコーディング、コンサートの撮影以外にも、プライヴェート・ショットや、無名のストリート・ミュージシャン、ジャズを感じさせるスナップ・ショットにも卓越したセンスを発揮している。ここ数年、クラクストンの再評価の気運が高まり"Jazz", "young Chet"といったソフト・カバーや、"Claxtonology"といったハード・カバーと、写真集が多く出版されている。
 コマーシャル・フォトグラフィーの世界で活躍するフォトグラファーたちも、ジャズメンのヴィヴィッドなポートレートを残している。マイルス・デイヴィスのラスト・アルバム"Doo-Bop"のカバーや、アメリカン・エキスプレス・カードのキャンペーン用のエラ・フィッツジェラルド(vo)のポートレートを撮影したアニー・リーボヴィッツ、レイ・チャールズ(p,vo)や、ジャコ・パストリアスel-b)の瞬間を捉えたノーマン・シーフらがその代表例であろう。彼らが撮影したアメリカの個性的な俳優、ロック・ミュージシャンらのポートレートも、スターたちが放つ強烈なオーラをどこまで写真に写し込めるかという、チャレンジが興味深い。

*今回紹介した写真集は、マンハッタン内に多くの支店を持つ " Barns & Nobles "、ヴィレッジ、もしくはリンカーン・センターの " Tower Book " 97年11月号で紹介した" Lazz REcord Center " (236 W 26th St. #804)、インターネットのAmazon.comなどで入手できる。