2000年 4月号 Jazz Life誌 New York Report
New
York Jazz Witness
ポール・ブレイ&チャーリー・ヘイデン、ケニー・バロン&
ゲイリー・バーツのダブル・ビル・デュエット・コンサート 現代のジャズ・ミュージックは、アートとしての領域と、エンタテインメントとしての領域が、混在している。クラッシックのように、アカデミックにジャズを捉えたコンサートを企画している団体の一つに、NYにはジャス・アット・リンカーン・センターがある。今回は、この2月から始まったデュエット・シリーズの第1回の企画であるポール・ブレイ(p)とチャーリー・ヘイデン(b)、ケニー・バロン(p)とゲーリー・バーツ(ss、as)の、ダブル・ビル・コンサートの模様を伝えたい。
ジャズ・アット・リンカーン・センター(J@LC)の企画では、ウィントン・マーサリス(tp)率いるリンカーン・センター・ジャズ・オーケストラがひろく知られているが、マーサリスのディレクションによるイヴェントのほかにも、ソロ・ピアノ・シリーズや、ヴォーカリストをフィーチャーしたシリーズ、ピアノ&ベースのデュエット・シリーズと、意欲的なコンサートを成功させてきた。NYシンフォニー、オペラ、シティ・バレエを擁し、クラッシック・ミュージックの殿堂であるリンカーン・センターのホール群で、いつもは行われているコンサート・シリーズだが、今回のデュエット・シリーズは、"デュエッツ・オン・ハドソン"と題して、ビルの最上階にあるガラス張りのペントハウス・ホールで、ハドソン川とマンハッタンの夜景を楽しみながら、音楽を鑑賞するという趣向である。ホール・コンサートに比べると演奏者達との距離も近く、250人とキャパシティも手頃で、よりよい音響環境でパフォーマンスを楽しむことが出来た。
ポール・ブレイ(p)が、客席よりもプラットフォームによって少し高くセットされたステージに一人であがった。低音域を強調した、アブストラクトな音列が呈示され、それが美しいメロディへと変化を遂げてゆく。客席と、窓辺に置かれたキャンドルライトが、荘厳なミサのような雰囲気を醸しだし、シンプルなメロディとブレイ自身のハミングが溶けあう。音列の断片が、美しくメタルモフォーゼをとげ、メロディへと昇華し、はかなく凝固をとげ、また断片となって散ってゆく。ところどころにちりばめられた、メタファーのユーモア・センス。突き放すような突然の停止による終焉。 ブレイの思考の流れがそのままサウンドに置換されている。
チャーリー・ヘイデンが加わった。パット・メセニー(g)とのデュオ「ミズーリの空高く」や70年代半ばにのこしたキース・ジャレット(p)や、オーネット・コールマン(as)らとのデュオ集「クロースネス」、「ゴールデン・ナンバー」から分かるように、ヘイデンはデュエットというフォーマットに、並々ならぬこだわりを持っている。その繊細なベース・ワークは、少ない音数の中で、それぞれの音が有機的に反応しあい、深い音の心象世界を築き上げる。
ブレイのパーソナルな思考の流れが、ヘイデンのサウンドの触媒によって、さらに過激に飛翔する。スタンダード・チューンの中でも、ハーモニーとビートの解体と、再構築が同時に進行し、かつて聴いたことのないサウンドが現出する。
ジャズ・ミュージックのメイン・コンセプトであるインプロヴィゼーションを拡大解釈し、演奏者の感情の流れ、思考の流れをストレートにサウンドで表し、知的でありながら、時にユーモアをまじえた上質な対談を聴くようなデュエット・パフォーマンスだった。
ケニー・バロン(p)と、ゲイリー・バーツ(as、ss)は、共にアフロ・アメリカン・ジャズのメイン・ストリームの中で、長いキャリアを築いてきた。 かつてエルヴィン・ジョーンズ(ds)が、「ブルースとは人生であり、毎日生み出されてゆくものである。」と語ったが、バロンとバーツはその言葉を裏付けるようなプレイを聴かせてくれた。 素材を、スタンダード、オリジナル、ブルース、リズム・チェンジなどから選び、ビ・バップ、モーダルそしてホンキートンクなど、様々なスタイルで、2人の音の間を埋めていった。それらを常に統一させていたのが、彼らの持つブルース・フィーリングなのだ。アフロ・アメリカン達の音楽的方言ともいえるこの感覚は、サウンドがハーモニーのインサイドとかアウトサイドであるとか、リズムが、オンかオフかということを超越して、一つの音楽としての成立を可能にしている。饒舌な会話の応酬と、一人ずつのステイトメントの提示は、彼らの肉声の会話を聴くようである。ブレイとヘイデンのデュオでは、コードや、リズムの大胆な解体が行ない素材をパーソナルなものへと変貌させたが、バロンとバーツは、トラディショナルなコード進行に則りながら、ブルースによってより普遍性を持ったフリーダムを獲得し、聴衆とコミュニケイトをとったのだ。ジャズ・ミュージックの許容範囲の広さを、再認識させるコンサートであった。
ジャズ・アット・リンカーン・センターでは、Web上でコンサート情報を提供し、チケットの予約を受け付けている。NYを訪れる際にチェックして、クラブ・ギグとは異なったライヴに触れることもお勧めする。
(2/19/00 於Stanley H. Kaplan Penthouse)
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